協力者 Vol.13


協力者 Vol.13

清美は再び、頭の中を読まれているんじゃないかと、気が気でなくなり、何も考えないようにしょうとするが、無になろうと意識すればするほど、邪念が襲い掛かってきてしまう。切羽詰った状況下にいるはずなのに、源三への感情が溢れ出てきて押え切れなかった。感情を言葉に置き換えてみようとするが、的確な言葉が見つからない。いや、言葉にしたくは無かった。ともかく、黙って頭の中を覗き見されるような状態だけは、避けなければならない。清美は羞恥心を打ち消すように、わざと源三に突っ掛かった。

「まだ、人の頭の中を勝手に覗き込んでいるんだ?」

源三は首を振って否定した。その返答に確信が持てず、むしろ不安だけが膨らんでいった清美は、居たたまれない感覚に襲われた。

「ちゃんと答えなさいよ。このままじゃあ、お互い成立しないでしょう」

源三が清美の方を向いて真顔になった。

「さっきも言うたけど、おばちゃんの隣に居ると、ああなるんや。離れてもたら、只の凡人やて。変に勘繰るなや」

源三は少し苛立っていた。

「そんなん気にする前に、清の捜索方法を考えてくれや。ちょっと前までデカやったんやろ。俺等、まじで命が危ないねんで。実際、何人も死んでるやろ」

運転手が話の内容に反応して、ル-ムミラ-越しに訝しげな視線を投げかけてきた。これ以上、車内で話をするのは危険だ。運転手だって、疑って掛かる必要がある。今の自分達は特殊な状況下に置かれていて、常に監視されている可能性があるからだ。清美はそのまま黙って、窓外の風景を眺めるしかなかった。
タクシ-は山手通りを通過して新宿に差し掛かった。甲州街道と交差する地点で、東京ガスのエンピツビルやNTTの社屋など見慣れた風景が飛び込んできた。昼間はさほど感じたことは無いが、夜のビル群は現実離れして襲い掛かってくる。点滅する赤灯が、いやがうえにも危険ゾ-ンを主張しているようで、安定した気分にはなれない。間も無くタクシ-は東中野駅のス-パ-前で停車した。運転手は最後まで源三と清美に訝しげな目線を投げかけたまま、走り去っていった。

「全てはここから始まったんや。一連の流れに必然性があるなら、目的は二つある。一つは、ミチエの意志が収まる為の肉体捜しや。もう一つは、ミチエの存在を知る者の消去やな。二つの目的が交差してるから、話がゴチャゴチャしとるんや。第三者、つまり清は消去の方に関わってる。シンプルに考えたらええねん」

源三は既にプランがあるらしく、確信に満ち溢れた表情をしているが、清美は今だ、本筋が読めないでいた。

「甘利教授が名古屋に向かったんは、清が仕掛けたトラップに引っ掛かったんや。名古屋までノンストップで走るのぞみの車内は密室みたいなもんや。教授にミチエの情報を流したんやろ」

「清がそんな事したら、何れ足がつくでしょう。それほど単純な男だとは思えない」

「誰が清って言うた。法子や。死んだ法子の仕業や。あいつは知らんふりしてたけど、元々、浅田ミチエの件を知ってたんや。誉めるわけやないけど、あいつのジャ-ナリストとしてのセンスは一流やった。18年前、事件当時に情報が遮断されるまで、暫くの間、時間があったはずや。法子は上手いことミチエの情報を手に入れた。たいした大学に行ってなかったのに大手出版社にまんまと入れたんは、そういう事か。情報を破棄する変わりに出世の道を手に入れたんや。ところが野心家の女やろ、法子は。何時、情報を暴露するかもしれへん。当然、監視する必要があるわな。つまり、清はそういう役目なんや」

「わざわざ結婚までして?」

「そうや。法子も、取り敢えずは悠々と暮らしとったんや。けど今回、自分の本が出せる。野心が復活したんやろ。俺に近づいたんは、ミチエに面会出来ると踏んだんや。俺はアホみたいに舞い上がって、頼まれもせんのに自分から進んでミチエの情報を提供して、教授まで紹介した。口では色々言うてたけど、俺より教授の方が使えると踏んだんやろ。時期が来たら俺なんかポイ捨てにする積もりやったんやな。そやから、清は何としても法子の暴走を阻止する必要があった」

そこまで一気に捲し立てた源三は、急に口惜しげな表情をして歩き出した。向かう方角の先には、恵の遺体が発見された飲み屋街がある。清美はともかく、後を追い掛けるしかなかった。


Vol.14へつづく