協力者 Vol.14

協力者 Vol.14

源三は躊躇することなく『ねこ』と看板が掲げられた店の門を潜っていった。恵の事件発生当時、聞込みで清美も何度か来ていたのでマスタ-とは顔見知りになっていたが、中に入るのは抵抗があった。以前、会ったことのあるマスコミ関係者が居ると面倒臭いのと、懲戒免職に追い込まれた自分に引け目もあったのだ。顔を合わせれば、根掘り葉掘りあることないこと聞かれるのは解かっている。かと言って源三が出てくるまで、ずっと店の前で待つには寒すぎた。清美は恐る恐るドアの隙間から中の様子を覗き込んでみた。店内はガランとしていて、カウンタ-席に源三が一人いるだけだ。マスタ-と親しげに喋っている。マスタ-だけならいいかと、清美は思い切って中に入った。マスタ-は清美の顔を見てもキョトンとしている。事件発生から二十日は経っている。忘れているのかもしれない。清美は源三の隣に座って、取り敢えず同じ物を注文した。暫く黙ったままグラスを傾けていたが、源三は一向に話の続きを喋ろうとしない。マスタ-と下らない与太話を繰り返しているだけだ。いい加減しびれを切らせた清美は、二人の会話に割り込んでいった。

「話の腰を折って悪いけど、続きを聞かせてくれない」

ムッとした表情になった源三は、グラスに入ったウイスキ-の原液を一気に流し込んだ。

「そやから、ここに連れて来たんや。このマスタ-、今はこんなに落魄れてるけど、かつては大手出版社の長を張ってた人で、法子のボスやったんや。デカパイが大好きで一時、法子と付き合いもあった」

マスタ-はしかめっ面をしながら否定しているが、実は照れているのかも知れない。顔中に深く刻まれた皺の為、表情が正確に読み取れなかった。

「源三、相変わらず口悪いな。最も法子があんな事になって、気にはなっていたけどね。デカパイ好きは勘弁してくれって。純粋に愛した時期もあったんだから」

「その純粋に愛した女に、出版社を追われたんも事実やろ」

相変わらずマスタ-の表情は複雑で判別がつかない。少なくとも怒ってはいないのだろう。二人の会話から悪意は感じられない。

「でな、マスタ-に力、貸して貰おう思てんねん」

まるで源三の真意が掴めなかった。久しぶりにウイスキ-を原液で飲んだせいか、酔いの回りが異常に速い。思考中枢が麻痺しているようだ。源三はマスタ-にこれまで起こった事件の経過を、詳細な所まで説明し始めた。そこまで話して大丈夫かと、冷や冷やしながらも、清美は源三が話し終えるのを待つしかなっかった。話しを全て聞き終えたマスタ-の顔は、高揚しているのがはっきり見て取れる。マスタ-はカウンタ-から客席側に回って入口のドアを開け、外の様子を暫く確認してから看板の電気を消してドアに鍵を掛けた。そのままカウンタ-の中へは戻らず、清美の横に座ってウイスキ-を三度に分けて煽った。

「源三、お前そのネタを公表するつもりでここに来た訳だ」

清美は予想もしなかった源三の計画にギョッとなって、声も出せなかった。

「世間に公表できれば、清をあぶり出せるんとちゃうか?全てを公表する必要は無い。浅田ミチエに触れとけば良いんや。事実が公になったら、あいつ等は揉み消しに掛かるやろ。俺等にも簡単に手が出されへんなるしな。とは言うても、僅かな時間稼ぎにしか、ならへんやろうけど。その間に、法子が掴んだミチエの秘密を探り出すんや」

「源三の話しから考えると、法子はどえらいネタを掴んでたんだろうよ。強かな女は、ネタと引き換えにチャンスをものにした。ところが再び、そのネタでブレイクしょうとして、殺された」

「清は、公安関係者や」

Vol.15へつづく