潜伏 Vol.5

潜伏 Vol.5

気が付くと、朝の通勤ラッシュが始まっていた。年の瀬も差し迫っている為か、行き交う運送関係のトラックの数が多い。マスタ-はキャンピングカ-を道路沿いにあるコンビニの駐車場に停車した。透かさず清美と運転を交替して、自分は店の中へ走り込んでいった。清美は運転席から辺りの様子を注意深くチェックした。ともかく清と舞は、何時何処から襲ってくるか解からない。源三もリア・ウインド-から外の様子を伺っている。コンビニの入口付近は朝のラッシュと供に、朝食を購入する客達が引っ切りなしに出入りを繰り返していた。マスタ-が雑誌を抱えて戻って来たタイミングで、清美はキャンピングカ-を発進させた。マスタ-と源三は掲載された記事を確認している。マスタ-の狙い通り源三の書いた暴露記事はタイプの違う二種類の雑誌に掲載され、両誌とも大きく取り上げられていた。予想以上の成果に二人供、取り敢えず満足しているようだ。高峰もじっくり読み込んで、自分の知っている事実と照らし合わせて、次の作戦を思案している。ラッシュに巻き込まれずに上手く切り抜けられたので、清美はカ-ナビをテレビ放送に切り換えて、各チャンネルをチェックしていった。今の所、何の変化も見られない。

正午になってマスタ-と運転を交替した清美も雑誌に目を通した。源三と供に調べ上げてきた内容が克明に描写されている。改めて活字になって掲載された記事を読むと、不可解で謎の多い事件がリアル性を帯びてくる。そう感じるのは、自分だけだろうかと考えもした。ミチエの生霊こそが一連の事件の真犯人だとした記事は、フィクションの中では成立しても、現実的に読者はどう捕らえるだろうかと不安でもあったが、源三の描き出す文章はそれを全く感じさせない力強さがあった。少なくとも身元不明の少女と法子、そして甘利教授の事件に繋がりがある事だけは十分伝わるだろう。可能な限り実名報道されているのが、清を炙り出すには実に有効だ。世間から忘れ去られていた浅田ミチエが復活したのだ。源三の力量を目の当たりにした清美は、感情の高鳴りを覚えていた。慌ててシ-ルドを張ろうとしたが、意に反して高鳴るばかりだった。源三はそんな自分を察知しているのだろうか?敢えて気付かない振りをしているのかもしれない。高峰が乗り込んできてから、努めて感情をシ-ルドしてきたが、時々、緊張の糸が切れて剥き出しになっていた。

午後のワイドショ-でも暴露記事の件を取り上げられる事はなかった。誰も口には出さないが、車内に焦りとイライラした感覚が渦巻いているのを、いやが上にも感じてしまう。その証拠にマスタ-は前方をトロトロ走っている軽自動車に対して、せからしくクラクションを鳴らしているし、源三は何度も掲載記事を読み返しては荒々しく溜め息をついている。逆に高峰は落ち着いたもので、ソファ-に横たわっていびきをかいていた。丸一日、留まることなく移動していた為、緊張感が途切れようとしている。やばい感覚に清美は襲われた。今、意表を付かれて清と舞に責め込まれたら、最悪の事態を向かえる可能性がある。清美はマスタ-と交替してハンドルを握った。逃走ル-トがパタ-ン化していたので、カ-ナビに切り換えて、まだ走っていないル-トを割り出していった。源三も清美の危機感を察知したらしく、DVカムをリア・ウインド-から後続車両に向けて確認し始めた。察知したというより思考を読んだのだろう。清美は感情のシ-ルドを放棄した。知られても構わない。むしろ知って欲しいとさえ思った。キャンピングカ-は再び新宿に差し掛かった。西新宿に乱立するビル群がまじかに迫ってきている。

Vol.6へつづく