潜伏 Vol.6

潜伏 Vol.6

夕方になって事態は一変した。各局がニュ-スで暴露記事に関しての内容を報じ始めたのだ。事件性は無く、事故死と断定されていた全く関係の無い三つの事件が、浅田ミチエという共通項で繋がっていたとなると、当然マスコミは警察の捜査に疑惑の目を向ける。世間から既に忘れかけられていた三つの事件が再浮上し、特に身元不明の少女が一ノ瀬恵であり、更には浅田ミチエの娘だと暴露されたことによって、身元を特定出来なかった警察の怠慢さと無能さに非難が集中した。モニタ-に見覚えのある情景が映し出された。ついこの間まで清美が勤務していた中野警察署の表玄関口の前で、若手男性レポ-タ-が上擦った声を張り上げている。

「こちら中野警察署の前です。現在、身元不明だった少女の確認が改めて行なわれている模様です。雑誌に掲載されていた人物と果して一致するのか、発表を待ってみないと解かりません」

別のチャンネルでは浅田ミチエ事件の詳細を取り上げていた。

「18年前、神奈川県厚木市で起こった日本初とでも言いましょうか、猟奇殺人事件を起こした犯人、浅田ミチエが今、何故こういう形でメディアに登場したのか、依然、謎のままです。既に逮捕され精神鑑定の結果、措置入院しています。現在も別の病院に入院中とのことですが・・・」

コメンテ-タ-が口を挟んだ。

「この事件は当時、マスコミでも騒がれましたからね。私も記憶にありますが、措置入院で本人のプライバシ-が考慮されて、報道が規制されたのを覚えています。確か動機が不明のままですよね。今になって浮上してくるなんて何かありますね」

マスタ-や源三の想像を遙に超えて、マスコミは暴露記事に過熱していた。特に公安関係者に対しての非難は高まる一方だ。マスタ-の携帯が引っ切りなしに鳴っている。昨日、原稿を渡した男から次号の催促がきたらしい。七時から各局で緊急の特別報道番組が始まった。対応が驚くほど迅速だ。レポ-タ-達は各地に飛んで、少女の遺体発見現場や福家法子のマンション前、甘利教授が発見された新幹線名古屋駅のホ-ムで多元中継を繰り広げている。

「三人に共通しているのは、全員、窒息死だということです」

マスコミに何度となく登場している霊能力者や精神学者、大学教授がコメンテ-タ-としてスタジオにスタンバイしていた。霊能力者はここぞとばかり、勝手な理論を主張した。

「生霊によって呪い殺されたという例は、過去、幾つも報告されていますからね。現実に有り得る事です」

当然、精神学者は反論する。

「そんな非現実的な。いい加減な事、言わない方がいいですよ。これはね、憑依現象と考えていいでしょう。まさか本当に呪い殺されたなんて信じてないですよね?」

「そうやって頭ごなしに否定するだけで、事実から目を背けているのは貴方達でしょう。実際に三人も同じ死に方をしているじゃないか。これはどう説明します?まさか偶然だなんて言わないですよね。雑誌に掲載されている通り、浅田ミチエの生霊に祟り殺されたんですよ。あれは実に良く取材されている。もしかしたら、何らかの関係者かもしれませんね。是非、テレビで証言して欲しいですよ」

ミチエが入院している神奈川県大和市にある川中精神病院の全景が映し出されて、番組の雰囲気が一気に変わった。窓一つ無い箱形の建造物は、まるで墓碑そっくりだからだ。半日掛けて聞き込み回っていた記者が、川中精神病院の運営実態の不明瞭さや、各関係者の非難的な証言を報道している。

「病院関係者の話しでは、患者を隔離しているような状態で、環境は非常に劣悪だそうです。聞くところによると、六帖ほどの室内に何人もの患者が押し込められているのが実情なようです。医院長に取材を申し込んでいるんですが、一切ノ-コメントで答えて貰えません」

Vol.7へつづく