潜伏 Vol.7

潜伏 Vol.7

過熱する報道とは対象的に、車内では全員が冷ややかに動向を眺めていた。深夜十二時を過ぎて画面に『警視庁が中野警察署に捜査本部を設置』とテロップが流れた。暴露記事ぐらいで再捜査を行なう情況は、まず有り得ないのだが、凄まじいマスコミの過熱ぶりと、警視庁宛の抗議電話やメ-ルが殺到した為、国民非難を回避する狙いもあってこれだけ対応が迅速になったのだろう。清美の携帯に谷茂から一報が入った。合同捜査の本部長には中野警察署長が就いたが、警視庁捜査一課強行班捜査係の係長、美濃部と中野署刑事課の二見係長が捜査割り振りに当たり、捜査員150名体制が引かれることになったらしい。

「捜査本部では三つの事件を連続殺人として、再捜査することになりました。名古屋の仏さんに関しては、愛知県警が洗い直すそうです」

清美に嫌な予感が走った。連続殺人事件として再捜査を行なえば、必然的に源三も容疑者の一人として加えられる。

「容疑者は挙がっているの?」

「はい。今の所、二名ほど。例の男ですよ。中川さんが拘わっていた今井源三と、法子の夫、福家清が浮上しています」

思った通り、不味い状況になっている。

「問題は死因でしょう。事故死扱いだったものが、どうやって殺人に切り替わったの?」

知らぬ間に清美は語気を粗げていた。

「甘利教授がもう一度、解剖に廻されます。ともかく徹底的に調べるみたいです。それより週刊誌読みましたか?」

週刊誌と言われて、清美は心臓の高鳴りを覚えずにはいられなかった。仕掛けた張本人だからだ。

「今さっき読んだわ」

「川中精神病院に関しても、何らかのアプロ-チを掛けるみたいです」

「捜査本部は本気で生霊とか考えている訳じゃないでしょう」

「それは有りませんけど。マスコミに浅田ミチエ事件が出ましたよね。動かない訳にはいかないみたいです」

「出来るだけ私も知っている情報、そっちに流すから。谷茂、何か解かったら連絡入れて。陰ながら協力するから」

「助かります」

「課長には言わないでね。私はもう辞めた身だから。あくまで一市民としてよ」

「あっ!会議が始まりますので、取り敢えず」

谷茂は挨拶も告げずに携帯を切ってしまった。捜査本部が混乱している様子が、目に見えるようだ。何としても捜査情報を手に入れなければ、取り返しのつかない状況に追い込まれてしまう。谷茂を利用する形になってしまうが、今はそんなことを言っている余裕は無い。舞と清の脅威に加えて、捜査の手もかい潜らなければならなくなっていた。暴露記事が予期せぬ方向に展開し始めている。警察がこれだけ迅速に動いたのは、何か特別な理由があるに違いない。それとも公安お得意のデモンストレ-ションなのか?マスタ-と源三はどうしたらいいのか解からないといった風だが、高峰は相変わらず冷静で、テレビにじっと噛り付いている。清美はマスタ-と運転を交替して自分のマンションに向かった。街中をウロウロしていてNシステムに引っ掛かりでもしたら、最悪の状況に成りかねない。今度は何処かに潜伏する必要があった。清美はマンション近くでキャンピングカ-を停車させて、辺りの様子を伺った。ついこの間まで自分をマ-クしていたマスコミの姿は無かったが、それでも慎重に地下駐車場まで徐行して、人目に付かないように非常階段を使って部屋に入った。マスタ-と高峰は部屋に入って来るなり、崩れるようにして座り込んでしまった。二人の年齢から考えれば、疲労のピ-クは遙に超えているだろう。マスタ-は丸一日、運転や入稿の準備で追われていたし、高峰はセミナ-参加者の追跡調査で二日間は一睡もしていないはずだ。逆に源三は、あれほど膨大な量の原稿を書き上げた割りに疲れを微塵も感じさせず、テレビの前に陣取ってニュ-スをチェックしている。清美はカ-テンの隙間からマンション前の通りを隈無く見渡して、不審人物が居ないか確かめた。今の所、大丈夫だ。源三を交替で見張ることになり、マスタ-と高峰は横になると直ぐに寝息を立て始めてしまった。清美の疲労度もかなりやばい状態だったが、緊張感と振り絞った気力で何とか今は保たれている。

Vol.8へつづく