果て無き興亡 Vol.5

果て無き興亡 Vol.5

清美は声も出せないぐらい白痴のような状態になった。清の話しが頭の中に入って来なくなってしまい、ボ-とした状態が続いた。聴覚が無意識の内に、拒絶反応を示しているのだ。それでも清の説明は容赦なく繰り返されていった。

「源三は小学校四年の時、再び力を発揮したんです。友達が一人亡くなっています。今井夫婦によって隠蔽工作が行なわれ、自殺と断定されました。家屋を破壊するといった強力なものでは無かったので、成長するにつれて力が弱まってきたんだろうと判断されたそうです。その時、気が付いていればこんな事には・・・。今となってはもう遅いですが。犯行が行なわれた前後の記憶を源三は失います。それが唯一の救いだとも言えますがね。それ以降は何事も起こりませんでした。脳のCTスキャンの結果では奇形状態にあるものの、取り立てて異常は診られないということで、源三が成人して東京の大学に入学した時点で監視活動は打ち切られました。今井夫婦はともかく予算の無い中で15年もの間、本当に良くやったと思います。実の息子以上に大切にしていましたから」

「これは我々の先輩によってなされた善意の行為です」と小男が付け加えてきた。更に雨が強くなった。突風が吹き荒れ、季節外れの台風みたいだ。室内は外圧から守られている。
清美はタバコに火を着け、キッチンへ向かった。ともかく熱いコ-ヒ-が飲みたかった。次に清から語られる内容を、冷静に受け止めなければならない。その為に頭を覚醒させたかった。暫く三人は黙ってコ-ヒ-を飲んだ。

「法子の話しをしなれけばなりませんね」

清の表情が幾分、雲って見えた。

「法子は卒論でヒ素ミルク事件を取り上げたんです。取材の時、完全に封印されていたはずだったRの存在を知ってしまった。どうやって調べ上げたのか、未だ謎のままです。今井源三の記録は抹消されていましたから、法子に知られることは無かったんですが、実は一ノ瀬夫婦も一度だけRの被験者だったことがあり、リストに残っていたんです。繰り返しますが、一ノ瀬夫婦は失敗に終わっています。ミチエが誕生したのはプロジェクト凍結後、何年も経ってからでRとは一切関係ありません。ところがリストには一ノ瀬夫婦の氏名が記載されていた。そして浅田ミチエ事件が起こった。法子はミチエの周辺をかぎ回ったようです。当時、学生だったにもかかわらず、恐ろしい程の取材能力を持っていましたからね。ともかくRの存在を世間に暴露されたら、終わりです。公安部に配属されたばかりの私は、法子の監視役を命じられました。身分を変え、当然、戸籍まで別人に成り済まして法子に近付いたんです。法子は大スク-プを大手出版社に持ち込み、入社を画策していました。公安部は出版社に手を廻して情報と交換に入社を成立させました。私は法子の勤める出版社と取引のあった印刷会社に入り、その後、彼女と結婚した。常に監視する為です。一番確実に情報を得るには、結婚が最も有効なんで。法子は何時か大スク-プを暴露します。いざとなったら交換条件なんて無視するでしょう。そういう女なんです」

「呆れるわ。任務を遂行する為だったら、プライベ-トも偽れるの?そんな人生、意味が無い」

「勘違いしてもらいたくない。僕は法子を愛して無いなんて言いましたか?むしろ彼女の能力を高く評価していたぐらいだ」

清の語気が荒々しくなった。怒りが含まれているのがはっきりと解かる。そうすると、清は法子を愛していたとでもいうのか?ばかばかしい。そんなのは如何でもいい。興味すら持てなかった。薄汚い男と女がまぐわっただけだ。清と法子が醜く抱き会っている光景が頭を過り、清美は猛烈な吐き気に襲われた。清の顔を見ているだけでおぞましい。

「話しを元に戻しましょう。今度は佐和子の五年前に起きた事故です」

これ以上、聞きたくなかったので、清美はマスタ-から聞かされていた話しを持ち出した。

「その話しは知っているわ。ドラッグに溺れてバ-ストしたんでしょう」

「クックックッ」と、清は神経を逆撫でするような笑い声を上げた。

「皆にだまされやがって、それでもデカか!呆れるにも程がある」
 
清の口調が変わった。妙な威圧感がある。これこそが本性だ。

「いいか、よく聞け。五年前、佐和子はセミナ-を開催していた。会場には200人ぐらいの信者が居たそうだ。みんな佐和子の予言を待っていた。ともかく的中率は相当のもんだったからな。会場のム-ドが最高潮に達した時、事故は起こったんだ。会場にいた全員が意識不明の重体に陥った。簡単に言うと、パアになった訳だ。自分の名前ですら、ろくすっぽ覚えちゃいねえ。全員、川中精神病院に御入院だ!」

Vol.6へつづく