果て無き興亡 Vol.8


果て無き興亡 Vol.8

清美の全身は自分の意志とは関係無く、小刻みに震えていた。止めようにも止められなかった。寒いからではなく、恐いといった感覚でもない。怒りとも違う。己の無力さに、唯々、失意のどん底に存在しているだけだった。知らぬ間に、涙が溢れ出していた。マスタ-と高峰は、源三を抱きかかえてフレ-ムアウトしていった。清の方を見ると、何度も頷いて同意を求める素振りをしてきた。

「これが現実です」

全身から力が抜けていった。清美は床に埋もれるようにして座り込んでいた。

「最初に雑誌が発売された時、気が付くべきだった。いや、遅くとも強制捜査を決行すると本部が決定した時点で、判断を下していたら・・・。奴らの本当の目的を!」

「目的?目的って」

「川中精神病院は一度入院すると、まず出られ無い。いや、絶対にだ。だが、強制捜査が行なわれる事になって、たった一度だけチャンスが生まれた。奴らはそれに掛けたんだ。その為の壮大なシナリオを、何年も掛けて用意してな。強制捜査が終了して患者達は再び収容された。一人だけ戻って来ない者がいた。佐和子だ」

「源三が迎えに行ったのね」

清美の声に力は無かった。

「源三は捜査線上に上がっている。あの場にやって来れば即、逮捕だ。ここに写っていた二人が来たんだ」

小男の差し出したポラロイドには、マスタ-と高峰、佐和子と思しき女が写っていた。女は最早、人間としての容貌を成していなかった。形容し難い肌の白さは、何年も紫外線からシャットアウトされて脱色されたのかもしれない。骨格だけが目立つ顔は、頭髪が全て抜け切っているせいもあって、直視出来ない異様さがあった。目の表情だけを見ても、正常な精神状態は存在していない。

「二人は佐和子の両親!」

清美は叫ぶしかなかった。

「退院時の記録用スチ-ルに写っていた。二人は野崎雄一と珠美、佐和子の実の親だ。公安部ですら、把握しきれてなかった。ともかく野崎夫婦はノ-マ-クだったのと、佐和子が措置入院して隔離された以降、我々は源三だけをマ-クしていたからね」

小男は残念そうに呟いた。無念なのが痛い程、伝わって来る。清も力無く呟いた。

「法子が死んで、私も源三の監視役に参加しました。彼の監視は一人でカバ-しきれなかったですから。中川警部補、あなたが彼と合流してから自体は急速に変化していきました。僕は改めて源三の周辺を探りました。甘利教授の時も・・・」

清は口惜しそうな表情になった。

「教授も源三が?不可能よ。あの時、私も一緒だったのよ。それに源三がホ-ムに到着した時点で、のぞみは発車した後だった」

「貴方は利用されたんです。知らぬ内に、そう思い込まされたんでしょう。22時東京発、名古屋行き700系のぞみの出発前後は、複数の列車が発着を繰り返しますからね。中央口の改札は常に轟音が鳴り響いている。貴方は時間を克明に確認しましたか?まして14番ホ-ムには行っていない。それは我々が確認していました。発見されたのが、名古屋駅に到着してからです。誰だって運行中に殺害されたと思い込むでしょう。源三はのぞみが出発する前に甘利を殺害したんです」

Vol.9へつづく