再捜査 Ⅱ Vol.5

再捜査 Ⅱ Vol.5

谷茂は似合わない鳥打帽を脱ぎながら辺りを見回した。

「流石ですね、先輩。伝言、聞いてくれたんですね」

「何だか回りくどいけど、これも課長の指示?」

「はい、先輩と一緒に旅行してこいって」

「旅行?」

「目的地は明石です」

「今井源三の産まれた所ね」

「詳しくは知りませんけど」

「課長はもう一度、最初から洗い流せという事なのよ」

「でも、大袈裟ですね。わざわざ旅行者を装って調べるなんて」

「一連の事件、根が深いのかもしれない」

「先輩は何処まで知ってるんですか」

「何もかも確証が持てない事ばかりだから、知っているとは言えない。一つだけはっきり言えるのは、誰も信じるなって事よ」

「先輩もですか」

谷茂が不思議そうに清美を覗き込んできた。

「あんた、まだ脳が柔軟なんだから客観的に観察するのが良いんじゃない」

新大阪に到着して、清美と谷茂はこだまに乗り換えて西明石に向かった。二人を尾行してくる、それらしき人物は見当たらなかったが、細心の注意は怠れない。
西明石の駅前ロ-タリ-に降り立った時には、深夜十一時を過ぎていたせいもあって、殆どの店は閉まっていた。

「やっぱり、田舎は早いですね。先輩、腹減りませんか」

改めてロ-タリ-周辺を見回してみるが、閑散としていて街燈すら照度が低い様な気がする。取り敢えず、唯一開いていたラ-メン屋で食事を済ませた二人は飛び込みでビジネスホテルに入った。運良く空室が多数あり、二人は最上階のツインル-ムにチェックインした。

「運良かったですね。実際に見るとデカイですよ」

谷茂は窓外に見える明石大橋を眺めながら感激している。

「正月早々、こんな所に観光する客なんて居ないんじゃない」

清美はベットの上に座って鞄から課長の捜査ノ-トを取り出した。

「谷茂、これ読んだの」

清美のかざしたノ-トをちらりと確認した谷茂は、ベットの上に身を投げ出してポツリと呟いた。

「ヘビ-ですね」

谷茂は再び起き上がって座り直した。

「これもそうだけど。先輩、丸尾教授の件も含めて二回とも巻き込まれただけじゃないですか」

「三回よ、今井源三にもね」

「えっ?」

「あんたが本当に信用できる存在なら、おいおい話してあげる」

ムッとしたのか、谷茂が鋭い視線を投げかけてきた。

「別に信用してない訳じゃないから。ただ、色々有りすぎて、判断がつかないだけ」

取り繕った積もりだったが、谷茂が意外な反応を示してきた。

「いいですよ、僕の事は気にしなくても。課長の指示通り動くだけですから。それより、ここも監視されてますかね」

「飛び込みでチェックインしたんだから、この中は大丈夫よ」

谷茂が数枚の写真を差し出してきた。

「Nシステムで確認されたものです。一枚は厚木のインタ-で撮られたもので、野崎雄一と珠美夫婦が娘の佐和子を引き受けた直後です。次のやつが名古屋のインタ-で撮られてます。後部座席に座っているのが今井です」

運転席に清美にとってはマスタ-である野崎雄一と助手席に霊媒師の高峰こと珠美が、後部座席に佐和子と寄り添うようにしている源三が写し出されていた。佐和子は亡霊の様にも見える。清美は久しぶりに源三の姿を見て、胸の高鳴りを覚えた。

「最後のが神戸のインタ-で撮られたものです。ナンバ-プレ-トを照会したんですが偽造されたもので、車は恐らく盗難車でしょう。この情報は署内では課長と僕しか知りません」

「あれだけ周到に計画した人達が高速なんて使うかしら」

思わず口について出た清美の独り言に谷茂が食い付いてきた。

「計画って?」

「あっ、いえ。こっちの事」

清美は必死に取り繕ったが、谷茂は明らかに疑いの目を向けている。公安の清から聞かされた真相を話しても良いかなとも思い始めていた清美だが、それは谷茂を巻き込む事になり、同時に自ら協力者であった事実を白日のもとにさらしてしまう事にもなる。逃亡ほう助の罪は重く、確実に実刑を食らうに違いない。今ここで逮捕でもされれば、真相は闇から闇へ葬られてしまうだろう。何故なら美濃部は、警察の威信を掛けて今井源三の存在自体を消す積もりだからだ。警察の威信というより、国家と言った方が的確かもしれない。真相を解明出来るのは自分しかいないのだ。解明なんて大層なものじゃない。もう一度、源三に会いたい。ただそれだけだ。

Vol.6へつづく