身元不明の少女 Ⅰ Vol.3

身元不明の少女 Ⅰ Vol.3

素っ裸のままTVにリモコンを向けた。モーニングショーが始まったばかりで、どのチャンネルも一様に三面記事の同じ内容を報じている。

「今日は土曜日か」

思わず口をついて出る。麻痺した曜日感覚が覚醒している。加速していた血流の勢いは治まった。ガラステーブルに放置されたままになっている二つのコップへ焼酎をなみなみと注いで一口、口にして口中を洗い流し、もう一つに指先をつけて爪の間に居座っている赤黒い物体をえぐり出そうと爪を挟みながら揉みほぐした。アルコールの中で赤黒く粘土のようになった物体はほどなく溶け始め、コップの中は瞬く間に澱んでいった。見ているだけで吐き気が甦ってくる。流し台に濁った液体を投げ付け、再び手を洗い指先の臭いを確認する。何度も何度も同じ行為の繰り返しは狂っているんじゃないかと自覚できるほど切りがない。
迎え酒で飲んだ焼酎が心地いい酔いを復活させ始めた頃、ようやく事の状況が飲み込めた。金曜日の夜、正確には土曜日になったばかりの午前3時過ぎ、東中野にある飲み屋街の路地裏で少女の遺体が発見された。外傷はなく、警察は病死と事故死の両面から捜査に当たっている。源三の住むアパートから近い。新宿で飲んでアパートに戻る途中、馴染みの飲み屋に立ち寄ったんだろうと勝手に解釈した。その後、酩酊して少女の遺体におそらく遭遇して寝入ってしまったんだろう。源三の不明瞭な記憶は、取り敢えず決着を見せた。病死ならたいした事件にはならない。

「待てよ」

源三は改めて自分の指先を見つめてみた。微かに赤黒い物体の痕跡が残っている。毒殺なら吐血した血ヘドか?これ以上考えるとまた吐き気に襲われそうなので、そのまま思考を停止してどうでもいいような再放送のドラマに集中した。昼過ぎまでダラダラと飲み続け、再び目覚めた時には既に夕方近くになっていたようで、窓外は薄暗く向かい側にあるマンションから明かりが洩れてきている。しつこいほど玄関のチャイムが鳴り響いていた。目覚めたのはそのせいだろうと納得しながら、覗き窓の先に中川清美の姿を確認した。その隣に偉そうな態度で自分を取り調べた若い刑事もいる。突然、悪寒が走り、全裸で寝込んでいたのに気が付き、脱ぎ捨ててあったヨレヨレのスウェットを慌てて身に付けロックを解除した。

「奇麗に片付いてるじゃない。だらしない男かと思ってた」

二人とも明らかに観察する目付きで部屋の中を細かくチェックしている。若い刑事の態度は露骨で、四段に積み上げたカラーボックスの中から無造作に数冊の本を抜き出してパラパラと読みもしないのに捲った。犯罪や薬物、毒物関係の書籍が多数並べられている為、興味を引いたらしい。二人は目配せしながらニヤニヤしている。触れられたくない秘密の領域にズカズカと土足で踏み込まれ、赤面してその場から立ち去りたい惨めさに襲われた。いくら好感を持てそうにない二人でもプロであることだけは間違いない。ど素人がとでも言いたげな表情が中川清美から見てとれる。つけっぱなしのTVが6時の時報を報じた。


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