RUBBER'S LOVER

(1996/35mm/B&W/4:3/90min)

【イントロダクション】

狂気をはらんだ映像と、爆音とも言える音の連続が本能を覚醒し、見る者の奥底から今まで意識しなかった感覚を呼び出していく―。
『ピノキオ√964』に続く福居ショウジン監督の長編第二作『ラバーズ・ラバー』は、1996年ロッテルダム国際映画祭に出品され、上映後は絶賛と非難が会場を渦巻いた。出演は、東京グランギニョル、M.M.M. テクノクラートなどの集団を率い、演劇、パフォーマンス、アートの世界でつねに最前衛に立つ飴屋法水。東京グランギニョル、M.M.M.に参加していた齋藤聡介、その多彩な才能と特異なキャラクターで異彩を放つ、周防正行監督『ファンシイダンス』(89)、塚本晋也監督『鉄男2』(91)のジーコ内山、コシミハルのコンサート等にパフォーマーとして参加していた国広美香などアンダーグラウンド・シーンで活躍するメンバーが結集している。美術は、メルツバウのメンバーでもある坂井原哲生。音楽は、CX『ウゴウゴルーガ』に音楽として参加し、アート、デザイン、DJ、そして松蔭浩之らとの音楽ユニットなど、多彩な才能を見せる谷崎テトラ。プロデューサーは、石井聰亙監督『狂い咲きサンダーロード』、川島透監督『竜二』の小林紘と、矢崎仁司監督『三月のライオン』の西村隆。協力として美術評論家の椹木野衣、そして評論家であり、ノイズ・ミュージックの世界でヨーロッパで絶大な人気を誇るユニット、メルツバウの秋田昌美が、名前を連ねている。

【ストーリー】

完全密封された“ラバー・ユニット”は、理想的なフローティング・タンクとして展開し、強力なL系の薬物と爆音による拷問によって精神が破壊され、トリップ状態を引き起こす。無に近づいた精神は、新しい脳を稼働させ、サイキックな電波を発揮し、パワーとなって想像を絶する破壊を展開していく。

センターと呼ばれる建物の中で、一ツ橋(飴屋法水)、本宮(斉藤聡介)、飯沼思美香(川瀬陽太)、あかり(国広ミカ)の4人はある巨大企業のスポンサーをバックに、極秘の研究を行っていた。
その研究とは、完全包囲型のラバー・スーツとD.D.D.(デジタル・ダイレクト・ドライブ)という装置を装着し、極少量の酸素のみで生存する “ラバー・ユニット”と呼ばれるシステムと、強力なL系の“エーテル”と呼ばれる薬物と爆音によって、人間の精神を破壊し、トリップ状態を引き起こし、それによって無に近づいた精神が新しい脳を稼働させ、サイキックな電波を発揮し、触媒を通じて具体的なパワーとなって想像を絶する破壊を生み出すというものであった。
しかし、研究は試行錯誤を繰り返した。裏ルートで用意したクランケ(被実験者)の質、そして数がハードな実験に追いつかず、D.D.D.の完成も遅れていた。スケジュールの遅延が、プロジェクトの時間と金を浪費させ、スポンサーは苛立ち一ツ橋、本宮、思美香は早く結果を出そうと、再び手に入れたクランケで実験に臨むが、それも虚しく失敗に終わった。
遂にスポンサーが実験から手を引く方針を決定した。その通告と精算を秘書の小野寺キク(奈緒)に命じる。キクは、間近に結婚を控え、フランスに渡る事になっていた。これが、彼女の最後の仕事なのである。
キクによって最終通告をされた本宮と一ツ橋は焦り、残されたわずかな時間の中で何とか研究を完成させようと試みる。そして、彼らは最終段階として残されていたクランケを使う事を決意する。
それは、同僚の思美香だった。本宮は以前から密かにエーテルを思美香に投与していた。彼こそが、本宮が用意した最強の、そして最後のクランケだったのだ。一方、センターで経理を検索していたキクは、資金の使われ方がおかしいことに気付く。その時センターに男の絶叫する声が響きわたった。
声のした場所を探して、リフトで地下に降りていくキク。ホールで行われていた実験を目にしたキクは、本宮達に拉致されてしまう。
実験は進められた。思美香は濃度の濃いエーテルを次々にクリアして、力を発揮し始めた。本宮と一ツ橋はなんとか実験を完成させるために、思美香とキクを使って最終実験を開始する。一ツ橋、本宮、あかりの中に生まれた、奇妙な三角関係。あかりはキクを嫌悪し、いつも自分を抑圧していた思美香に憎悪を隠さない。複雑な人間関係の中で実験は最終局面を迎えた。
キクの絶叫に、ラバー・ユニットに包まれエーテルを投与された思美香が反応し始めた。そして、ついに彼らはお互いを触媒として、力を発揮し始めた。二人から引き出されたサイキックは、一ツ橋と本宮が思っていたよりもはるかに強い力を発揮し、彼らに襲いかかる。
自分自身の力に目覚めた思美香とキクは、センターを後に町の中へ逃れていく。
スポンサーの手先である谷崎(ジーコ内山)は焦り、彼らの居場所を探す。彼は、思美香によって、自分の秘密が暴かれるのを恐れていた。
もう離れることは出来ない。
その身を隠す思美香とキクだが、終焉はすぐそこにまで迫っていた…。

 

【スタッフ】

監督×脚本×制作×編集   :福居ショウジン
エグゼクティブプロデューサー:小林紘
プロデューサー       :西村隆
撮影            :田沢美夫
美術            :坂井原哲生
スペシャルエフェクト    :椋梨夜
音楽            :谷崎テトラ(P・B・C)
録音            :鈴木昭彦
編集            :鵜飼邦彦
製作            :光和興業株式会社 ホネ工房
美術協力          :飴屋法水
製作協力          :池内務
:レントゲン藝術研究所
配給協力          :ビターズ・エンド

【キャスト】

飯沼思美香    :川瀬陽太
小野田キク    :奈緒

一ツ橋      :飴屋法水
本宮       :齋藤聡介
あかり      :国広ミカ
谷崎       :ジーコ内山

巨大に太った女  :松井志津加
影        :近藤達弥
クランケ     :河村央数
側近       :小林紘
声        :池内務

 

【コメント】

●端的に言って、近年、これだけ原則的な意味で「映画」たりえている作品は、少なくとも国内では稀だと言ってよい。
 闇はあくまで黒く沈み込み、反対に光を目も醒めんばかりに輝かせる照明の妙技。畳み掛けるようなカットの積み重ねが生み出すアクション。すなわち光と影、そして運動……この三つのポイントに於いて『ラバーズ・ラヴァー』が実現している水準は、映画と称して、その実、TVやビデオまがいの映像ばかり見せられている日頃の鬱憤を心地よく吹き飛ばしてくれる。しかし、それだけならばこの映画は、ただたんに稀な感性と秀でた技術に支えられた、いかにも優等生の作りそうな映画に留まっていたに違いない。
 この映画を非凡な物にしているのは、こうした映画的水準にはおおよそ釣り合わないような様々な破綻が、これまたこれでもかとばかりに積み重ねられていることにある。判然としない物語の進行、聞き取れない台詞、度を超えた暴力描写、ほとんどドタバタに近い演技過剰、聞き覚えのない奇妙な音楽……こうした破壊的な要素が、得難い成果と並行したまま、なんの矛盾もないかのように一本の作品にまとめあげられているのである。いったいこれを観るものは、怖がったらよいのか笑ったらよいのか感動したらよいのか怒ったらよいのか……。
 しかし、そのような混乱を巻き起こすことこそが、この映画の最大の魅力にほかならない。多くの人は拒絶するかもしれない。しかし、この場に及んでまだ映画ありうるのだとしたら、このくらいのものでなければ気が収まらないわたしなどにとって、『ラバーズ・ラヴァー』のような映画を実現してしまう福居監督のオブセッションは、ほんとうに貴重なもののひとつなのだ。
椹木野衣 美術評論家

●すっ、すごいよ、しょーじんさん!!
何だかよーわからんけど、とにかくホえたいんだよ、プウハァー、というのはよーくわかった。スゴイ、スゴイよ!
日本の自主ムービーは、狂い咲きサンダーロード以外嫌いでしたが、ひさびさにハマれましたよ、ホントに。アーッ映画っていいなぁ。撮影現場はスバラシイ、アホカス状態だったんでしょうねぇ。アニメのスピード感に慣れた目に耐える(いや、アニメじゃ、こんなカオスは企画として通らんでしょうねぇ)実写といった風情で、目の肥えたアニメファンにも何回もリフレインしてみて欲しいー、で審判を下してほしい怪物ムービーです。
村上隆(アーティスト)



●映画っていうオモチャを見つけた子供たちがフィルムと遊んでいるのを見ているようで楽しかった。小難しい映画よりも楽しいほうがいいです映画は。
松本大洋(マンガ家)

●映画というメディアのはらむ本質的な危険性を、この作品ほど直接的に映し出しているものは、私が知っている限り他に例がない。
 それは、この作品が、拉致・監禁・洗脳といった「危ない」テーマを扱っているという理由からではない。
 そうではなくて、そもそも映画というメディア自体が、拉致・監禁・洗脳のための密室に他ならないのだ。
 密室・暗闇・点滅する光輝、鳴り響くサウンドトラック……某宗教団体が起こした事件などより、この作品は危険で、それ故に魅力的なのだ、と私は強く確信している。
清水アリカ 小説家

●『ラバーズ・ラヴァー』が撮られた時にまだオウム事件は起こってなかった。だが、洗脳、暴力、セックス、薬物、識域下操作、生体実験、闇のユース・カルト……といった前作を受け継ぐモチーフはオウムのおかげでたんなる絵空事ではなくなった。というより、現像されぬまま眠っていたフィルムが現実世界に作用するって事だってあり得る。映画の霊性とはおそらくそんなところにあるのだ。『ラバーズ・ラヴァー』は最初から最後まで叫んだり痙攣したり、苦悶したりしている。いさぎよいほど同じテンションで黒と白のきれいな濃縮画面が良い。秋葉原サイバーパンクを超えて男気ハードコア・ロマンの世界に突入した。
秋田昌美(ミュージシャン×評論家)

●スタイリッシュでありながら、ドキュメンタリー映画を観ているようなリアリティだった。エーテルの実験室の後、廃屋とコンビニエンス・ストアが生々しかった。日常はあまりにも狂気をはらんでいる。生命体はエロティックだし、エロスは限りなく死に近い。血が流れているよ、体の中に…。
冴島奈緒

●スピードとエネルギーとドラッグ、めまぐるしく展開する暴力的なシーンの中、ラバースーツの冷ややかな感触が印象的だった。
飯沢耕太郎(写真評論家)
 


●もはや肉体と魂(SOUL)は自然分離したがっている。この映画はその神変の瞬間を実証する映像だ。
古澤敏文(プロデューサー)

●ストーリーはともかく観客への延髄へのゲロゲロの生理感覚直接刺激と言う点では、中盤までおおいに成功していると思います。こんなにも「無能世界」の真実は、ゲロゲロと清々しくあったのか!?しかし、ストーリー描写の場面となると果たしてB級ギャグ?一瞬はフランケンシュタイン以来の歴史を正当に継承する「超人間」のリアルな話かと思ったのだが……いやまてフランケンシュタインもb級的存在だった。
中ザワヒデキ(マルチメディア・アーティスト)

●かつて取材したことがあるSM嬢の奈緒ちゃんが出ているというので見に行った福居ショウジン監督の作品。試写場にあふれる過激な映像とサウンドに耳を塞ぎ、目を覆いたくなる。それでも我慢して観ていると嘔吐しそうになるが、どういうわけか最後まで見ずにいられない。見た後は、お腹一杯になるし、もう当分見たくないと思うのだが、時間がたつと、また見たくてたまらなくなってしまう。そんな映画だった。
体調のいいときに見に行こう。
下関マグロ(脳天気商会)

●相変わらずグッチャグチャな世界と爆音の洪水。途中、もうダメかと思った。
しかし、メタリックで官能的でセンス抜群の映像がいつしか私を陶酔へといざなっていた。
予期せぬことだった…。こんなグロテスクでおしゃれな映画は世界のどこにもない。
武藤起一(映像環境プロデューサー)

●『RUBBER’S LOVER』は、私が今まで見た事のない類の映画だ、と言える。安っぽいヒューマニズムもラヴロマンスも凡庸なストーリーさえもこの映画には存在しない。在るのは、ひたすら加速していく苦痛と叫び、そして破壊。監督自身が撮影当時はらんでいたであろう混沌(カオス)と狂気…。
それらの全てが画面から巨大なパワーとなり鋭利な刃となって観る者の脳細胞や神経に突き刺さる。
それが快感に成り得るか否かは観る人の持っているエネルギーやパワーに左右されるのではないだろうか。(私にとってはもちろん快感)
そういった意味に於いて私はこの『ラバーズ・ラヴァー』の持つパワーを受けとめられる人々の人生に期待している。
森園みるく(マンガ家)

●強力なL系の薬物に、爆音、監禁、サイキックな毒電波、ついでに拷問されて玉砕? こんな感じで、キャッチがとってもショッキングてんこ盛りなんで、アンダーグラウンドでは大ウケ! なんってハキチガエる方がいるかもしれんが、それでは大いに困る。
 だってこれって、ド・メジャーなアニメ『タイムボカン』それも〈ワルキャラ3人組〉が主演の幻の実写版映画なんでしょ?。あかりがドロンジョ、一ツ橋がセコビッチで本宮がドワルスキー(体型的には逆だけど)。ちなみにお仕置きとかする人がジーコさん?
 センターと呼ばれる秘密基地で、ワケわかんない〈ラバー・スーツ〉やら、へんてこな機械〈デジタル・ダイレクト・ドライブ〉とか作ってるし、実験に失敗してお仕置きくらったり。この三人の奇妙な三角関係だったり。これじゃーまるで『タイムボカン』でしょ?
 いやー、あの懐かしのアニメを世紀末を前にして見れるとは思わんかったなり。しかも実写の映画で…ショック。なんて、あまりにもキャラだちし過ぎるサブキャラがいるもんで妄想が妄想をよび、本篇のストーリーを忘れてしまったではないか(プンプン)。
 と、いうことで本当はこうなのだ。ヒロイン奈緒は結婚を間近に控えフランスに渡る予定だったが、ヒョンな事から奇妙な事件に巻き込まれる。前半の彼女は、結婚などという普遍的な幸せに身を投じようとする普通の女の子であった。が、彼女は思美香に出逢った事で、彼女の中の「オンナゴコロ」が突然変異、はたまた潜在意識の逆流か? 強い女として変身をとげる。
 それは、リチャード・カーンの写真集『new york girls』や『X X girls』に登場する女の子たちの、受け身的な女や「らしさ」、流し目ウッフンと男に「媚びる」ことを拒否した強い女と同じ。多数のギャル・ビッチを撮るリチャード・カーンはこういったモデルたち、強い目を持つ女たちに最高のセクシャルを感じるらしいんだが(マゾか?)福居さんはどーなのかしらね。
 『ラバーズ・ラヴァー』の奈緒もあかりもニラミを利かせ、世間に“SHITT!”とツバを吐く如き、カメラに笑顔なんて向けやしない。彼女たちは自我を持つオンナとして、〈エーテル〉という銃を持つ、90年代のフェティッシュ・シンボルとして生まれ変わったのだ。
 と、終わりたいトコロだが、ちょっと待て。この映画には巨大な疑問が残っている。なんでななんで、あんなハイテクだかローテクだかわかんない機械な部屋から、四畳半ボロアパートになっちゃうの? うーん『赤提灯』じゃないんだしさー、映画なんだからファンタジーの世界でもいいじゃない。せめてコンクリート打ちっぱなしの、おマンションがよかったなー。奈緒なんて、もう一息でパリのアパルトマン生活だったのよ。最後の最後で滲み出る福居さんの悲しい性ですか。これじゃ、まるで〈新宿ヒザ抱えパンクロッカー〉の世界じゃないのよー。もう台無し。この困ったちゃん、メッ。
工藤キキ(美術ライター)


[予告編]



[海外映画祭 上映履歴]

2013年 t-mobile ニューホライゾン国際映画祭(ポーランド)(Midnight Madness : Cyberpank(サイバーパンク)部門)

1996年 ロッテルダム国際映画祭(オランダ)(招待作品)