291号室 Vol.5

291号室 Vol.5

その日は、神奈川県厚木市の一家心中があったと噂される廃屋へ車を走らせていた。時間は深夜、零時を過ぎ、小雨が降っている為、視界が悪い。車内には何時ものメンバ-が四人、同乗していた。自分達が捜してきたネタだけに、四人供、何時にもなく盛り上がっていた。問題の廃屋に近づいた時、異変は起こった。源三は息苦しさを訴える。仲間達はイタズラだと思って相手にしない。源三は呼吸困難に陥り、身体を硬直させ、全身麻痺と圧迫音に犯され始める。視界にヘットライトで浮かび上がった廃屋が飛び込んで来た瞬間、限界に達した源三は激しく痙攣を起こす。異変にようやく気が付いた仲間達は、慌ててその場を後にする。廃屋から離れていくうちに、源三は正気を取り戻していったが、話はそこで終わらない。その後、ニュ-スである事件を知る事になる。
若い夫婦がいた。夫、浅田武文はミュ-ジシャンで、生活は決して楽なものでは無かった。妻、ミチエは水商売をして夫を支えていた。ところが、夫はろくに仕事もせず、ミュ-ジシャン仲間とドラッグ漬けの日々を送り、妻に暴力を振るう様になる。その内、妻は夫の仲間の一人と関係を持ってしまう。間も無く、夫の知る処となり、劣悪な日々が展開していく。そして、ついには、逆上した夫を、妻は殺害してしまったのだ。ここ迄はよくある話しだが、その先が少し違っていた。妻と不倫相手は、殺害後、夫の全身の皮膚を剥ぎ取り、清めの塩を擦り込んだという。たまたま、その光景を目撃してしまった夫の親戚に、妻のミチエは言ったそうだ。

「悪魔が身体から出てくれないの」

この事件はニュ-スで大々的に取り上げられ、宗教団体が関与しているとか、狐憑きだとか、数々の憶測が飛び交わされていったが、ある時期パタリと報道されなくなってしまったのだ。理由は今でもはっきりしていないが、事件の舞台こそ、まさに源三達が向かった廃屋だったのだ。源三達が廃屋に行ったすぐ後に、若い夫婦が住み着き、事件を引き起こした事になる。源三は自分の身に起こった現象と事件が何らかの関係があるのではと考えていた。

目を閉じて、じっと話しを聞いていた甘利は、突然、源三の背後を見る様な目付きをした。暫く、その状態は続いた。源三は身動きが取れないでいた。

「その事件を追ってどうするんです」

「私にも何らかの関係があるのではないか。そう考えてます。もしかしたら、あの時、自分もやられていたかもしれない。廃屋に棲み着いた悪霊によって。真相はシャットアウトされてしまった。そうせざるおえない何かがあった。事件後、廃屋は取り壊されてしまいましたが、ミチエは今も生きています」

「僕に彼女を見ろというのですね。言い換えれば、貴方は僕の能力を認めている事になりますが、それでは中立には立てないでしょう。話が目茶苦茶ですね」

源三は言葉に詰まった。本来、取材する時は、事前に相当量の資料や取材対象が書いた書籍類を全て読み込んで望むのだが、今回は手っ取り早さを優先させ、持ちネタをぶつけて(逆に良いネタでも拾えればいいや)と、いい加減な気持ちで望んでいた。堕落した日々があまりに長すぎたのだ。実際、甘利の能力を疑っていた。如何わしい霊能者ズラしたヤロ-の化けの皮を剥ぎ取ってやろうというのが本音にあったかもしれない。警戒心の強い甘利に見事、見透かされてしまったようだ。自らの浅はかさを痛感し、赤面しもした。他を当たるかと諦め掛けた時、以外にも甘利が好意的な笑みを浮かべてきた。

「正直な人ですね。協力させて頂きますよ。一つ明らかにしておきます。宣伝も無しに、何故、参加者が集まるのか疑問をお持ちでしょう。是非、知っておいて欲しいのです。実はね、影では涙ぐましい努力を行なっているんですよ。研究室の助手に、あっ、最近はアルバイトを雇う事も有るんですが。先ず、悪い家相をリサ-チします。方位学的に立地条件の悪い家は必ず何らかの問題を抱えています。確率が高いと言っていいでしょう。毎日、地区を決めてロ-ラ-作戦を行ないます。査定の基準は企業秘密ですが、そうやってセレクトした家にダイレクトメ-ルを送る。ただ、それだけです。あるいは地区全体がマズイ磁場の場合もあります。この場合、ポスティングでベタまきを行なうのです」

「それだけで人が集まるんですか」

「ええ、問題を抱えている家人はDMを見て、どうして直接送られて来るんだろう?何で家の事情が解かったんだろう?これは見えているのかもしれない。こうやって自然と信じていくんです」

甘利が何故、自分にこんな説明をしたのか、その真意が掴め無かったが、少しでも、如何わしさを払拭しょうとでもいうのだろうか。確かに、理に叶っているようにも思える。源三は甘利に対しての違和感を無くしていった。

「教授は集めた人達を霊視するんですよね。霊が見えると判断していいですか?」

「敢えて、コメントはしません。ある意味、デリケ-トに扱わないとなりませんから」

余程、確信があるのか、甘利は霊能力に関して一切、語ろうとしなかった。別れ際に「僕でなくても、一度、診てもらった方がいいですよ」と、甘利が忠告してきた。一瞬、身元不明の少女が頭を過ったが、不安はすぐに掻き消されていった。久しぶりに仕事をしたせいか、充実感に満ち溢れ、思考がポジティブになっている。ともかく、協力を取り付ける事が出来た。


Vol.6へつづく