291号室 Vol.6


291号室 Vol.6

三日後、源三はレンタカ-を借りて、田所、甘利と供に神奈川県大和市にある川中精神病院へ向かった。甘利は、十八年前の事件を、かなり細かい所まで調べ上げていた。僅か三日間で、優秀な調査力だ。

「問題のミチエが事件を起こした廃屋は、事件後すぐに取り壊されて、現在もさら地のままなんですが、土地との因果関係を探るのは困難でしょう。今井さんの話しにあった、一家心中の件はガセでしたね。話しを聞く限りでは呪縛霊だとも考えづらいし、家に関する情報も、近くに住む人も居ないような場所ですから、リサ-チは不可能でしょう。まあ、これは私の助手が調べてきた結果ですから、信用して頂いて結構だと思います。あと、不倫相手の男は逮捕されて直ぐに、独居房で自殺を遂げてますね。それと、ミチエは措置入院後に転院して、現在の病院に入院している。今井さん、どうやって調べたんです。刑事事件を起こした被告が措置入院した場合、民間人が調査するのは不可能でしょう」

どう答えようかと、困っているところに、田所が上手く切り返してくれた。

「逆に教授は、どうやって調べられたんですか」

「田所さんとは今日、初めてお会いしたばかりですから・・・。いいでしょう。守秘義務があるので、誰とは言えませんが、仕事上、その方面の方とは通じていますから、情報を得るのは比較的、容易い事なんです。霊的な事柄は、精神学関係からも検証する必要がありますので。ただ、浅田ミチエの件に関してはシ-クレットになっていたはずです。答えて頂けないなら、協力は出来かねます」

源三は甘利の言った事を把握していなかった。ミチエの存在を知ったのは、ほんの偶然だったからだ。ただ、説明するとなると、個人的事情を明らかにする必要があった為、なかなか言い出せないでいた。険悪な雰囲気が流れた。まずい状況を察した田所が、源三を即して来た。

「今井君、取材する上で重要な事だから、編集長として、私も聞いておく必要があるわ」

このまま言わなければ、取材はおろか、仕事までも失って、再び突破口の無い状態に戻ってしまう。それだけは、何としてでも食い止めたい。これが最後のチャンスだと肝に命じている。源三は腹を決めるしかなかった。

「解かりました。私のプライベ-トに関する事なんですが、恥を忍んでお話しします。ただ、この話を聞いて、私自身の人間性までも疑わないで頂きたいと言う事をお願いしておきます。事件を知った経緯は、昨日、教授にお話したとおりです。事件のあった屋敷で、あっ、私は前を通り過ぎただけなんですが、妙な体験をしたのは確かで、事件後、興味を持ってニュ-スなどをチェックしていました。けれど、十八年も前の事です。世間が忘れるのと同じく、私もすっかり忘れていました。先生は既にご存じだと思いますが、川中精神病院は非常に特殊な病院です。治療が困難で、他の病院では受け入れられない、または面倒見切れなくなった患者の最後の砦と言っていいでしょう。患者の殆どは、原因不明のまま病名を特定出来ず、当然、治療方法も解かっていません。荒っぽい言い方になりますが、治療目的ではなく、隔離専門なんです」

ここ迄言って、源三は口を噤んだ。田所はもっと軽く考えていたらしく、困惑している。源三の話しを補足する形で甘利が続けた。

「川中精神病院はあまりに特殊な為、親族以外の立ち入りは出来ないと聞いています。だから確認したいんです。部外者のあなたが、どうやって浅田ミチエの所在を知ったのか?情報が漏れる事は決してありませんからね」

「それを言われると、誤魔化せませんね。解かりました」源三は、ひと呼吸おいてから話を続けた。

「あそこには、私の元、妻が入院しています。丁度、五年前です。その時、浅田ミチエが入院しているのを知りました。他の人よりは、かなり詳しく事件をチェックしていましたから、ミチエの顔を見た瞬間、報道されていた写真と一致しました」

暫く、甘利と田所は黙っていた。

「そういう事でしたか。話しずらい事をお聞きして申し訳なかったですね。ただ、奥さんに面会出来るのは解かりますが、浅田ミチエにどうやって会うんです?」

「妻とミチエは同じ病室に隔離されているからです。引き離そうとすると、お互いに凄まじい抵抗を示し、錯乱状態に陥るのです。不思議なんですが、一緒に居れば安定しています。もしかしたら、通じ会う何かがあるのかもしれません。取材と言うと入れませんので、私の付き添いと言う事でお願いします」


Vol.7へつづく