第二の事件 Vol.1

第二の事件 Vol.1

 身元不明の少女は行旅死亡人として処理され、無縁仏になった。僅かに残された遺留品は市役所に保管されている。その後、これと言った最重要事件は発生しなかったが、清美は日々、細々とした書類の作成に追われていた。あれ以来、ずっと弥生の事が気になっていたが、丸尾から連絡はない。こちらからも、いまいち連絡する気にはなれなかった。他人事として、割り切ってしまえばいいのだが、変容した弥生の姿が目に焼き付いて離れない。事件が起こりそうな可能性だって孕んでいる。それでも、一歩も踏み込めなかった。丸尾の事だから、何とか解決するだろうと高を括ったりもした。自宅に戻っても、弥生の事が頭から離れない。児童心理学の本を読んだりもした。一昔前の子供の事なら解かる様な気がしていたが、最近の子供達はまるで掴めない。子供がいないから、余計に解からなかった。気になっていたのには、もう一つ理由があった。弥生の部屋の前に立った時、人の手も触れていないのに、ドアが開閉した事だ。緊迫した薄暗いフロア-で視界は遮られていた為、見間違いかも知れないが、少なくとも清美にはそう見えた。

「勝手にドアが開閉するか?」

決して頭が古い訳ではない。特別な力と考える事も出来る。しかし、身内の様な存在にそれは認められない。どうしても主観を挟んでしまう。人は進化の過程で、置き忘れて来た物を取り戻そうとしているのか。フィクションの中では容易に語られるだろう。だが、現実は違う。そう言い切ってしまうには危険性があった。はっきりとした境界線が引かれていないから・・・。

午後になって、中野区弥生町の交番巡査から、マンションの一室で女性の変死体を発見したと、一報が入った。清美と谷茂は鑑識課と供に現場に直行した。赤灯を回しサイレンをけたたましく鳴らした警察車両と、鑑識課の青いワゴン車は青梅街道を抜けていった。昼休みが終わったばかりで、営業車やトラックがごった返していた為、何度も「警察車両が通ります。左へ避けてください」と拡声器で指示を出さなければならなかった。杉山公園の交差点を左折すると、更に状態が悪く、狭い道路に何台もバスが連なっている。対向車線にはみだしながら中野通りを通過し、予定していた時間を大幅に遅れて現場に到着した時には、マンション付近一帯に野次馬が集まりごった返していた。交番巡査達が総出で整理を行っている。規制線を潜り抜け、四階フロア-まで階段を使って駆け上がっていった。404号室の前に小柄な老人と巡査二名が待ち構えていた。傍らに二十代前半の女性が、床にそのまま座り込んで口元にハンカチを当てて青ざめている。表札を見ると『福家』と書かれてある。清美は鑑識見通しが出るまで、第一通報者の話を聞く事にした。

「無断欠勤が三日も続いたんで・・・。携帯入れても電源切ってあるし。取り敢えず、見て来いって言われて。鍵掛かってたんで、管理人さんに開けてもらったんですけど・・・」

女性は動揺していて、話が切れ切れになる。清美は女性の肩を抱き抱える様にした。ガタガタと震えが伝わってくる。余程のショックを受けたのだろう。


Vol.2へつづく