第二の事件 Vol.3

第二の事件 Vol.3

「被害者、氏名、福家法子。昭和四十三年六月二十三日生まれ、享年三十四歳。本籍地、東京都台東区三ノ輪1-5-2。現住所、東京都中野区中央4-29-2マ-キュリ-マンション404号。千代田区飯田橋のユリアス出版社に勤務」

地取り班による現場周辺からの聞き込みで、403号室の隣人が二度程、騒音で苦情を申し出ているが、いずれとも管理人の小田老人が立ち会い、トラブルには至っていない。その他、近隣からの苦情は無かった。小田老人の証言で複数の出入りはあったらしいが、これも敷鑑から知人、友人、交友関係に問題は無く、怨恨は考えられない。事件性は非常に薄かった。会議は淡々と進められ、唯一、鑑識の野村から、谷茂に対するクレ-ムが出た時だけは、会議室は爆笑の渦に包まれた。谷茂は青ざめた表情のまま、しきりに恐縮している。落ち込んでいる谷茂を、いい気味だとも思ったが、教育係としては放って置けない。清美は二見課長を誘って行付けの小料理屋へ谷茂を連れて行った。本人のプライドはズタズタに傷付いたらしく、谷茂はビ-ルやつまみに一口も口を着けない。

「中川だって、最初の頃は、よく戻してたよな」

「止めて下さい、課長。少なくとも私は外でやってましたから。谷茂、現場汚したのは不味かったよ」

「すいません。臭いだけで、もうやられそうだったんですけど、あんなの見たら・・・」

現場の光景を思い出したのだろう。谷茂はトイレに駆け込んで行った。

「ありゃ当分、使いもんにならんな」

「誰だって、最初は同じですよ。最も、あんなの見たら私だって、やりそうでした。ところで、課長はどう思われますか」

「これで二人目だと、言いたいんだろ。身元不明から二週間で又、同じ形状の遺体が出た。解剖の結果が出ない事には、何とも言えないが、確かに引っ掛かる」

「夫の清を少し洗ってみたいんですけど」

思惑有りげな清美の表情を二見は見逃さなかった。

「どういう事だ。言ってみろ」

「あの夫婦、一緒には住んで無かった様に思うんです」

「珍しい事じゃない。そういう夫婦だって居るだろう」

「何か引っ掛かるんですよ。明日、現場に立ち会わせて、様子を見てみたいんですけど、良いですか」

「まあ、夫の立ち会いで再検証する分には、問題無いが・・・」

ようやくトイレから戻って来た谷茂は、顔面蒼白で貧血を起こしている為、先にタクシ-で帰らせる事にした。そのまま、二見と清美は居残って飲み続けた。二見は周りに警察関係者が居ないのを確かめて、小声で迫って来た。

「ここだけの話だ。言ってみろ」

「遺体確認の時、夫の顔が笑っている様に見えたんです。ここ五日程、大阪に出張してましたから、アリバイ有りと言えばそういう事になりますけど」

「旦那は印刷会社の営業マンだろ。そんなに長期間、出張があるのか?」

「会社に確認を取りましたが、よくあるそうです。印刷業界でも中堅所ですから、こういう御時世もあって新規開拓が大変だそうで、大阪だけでなく西方面に得意先を広めようとしているらしいです。仮に、長期出張の多い営業マンだとしてもですよ、あの部屋には夫の物がないんです。逆にちょっと疑問に思ったんですが、洗面所の歯ブラシの数が複数ある事です。管理人の証言で、出入りが多い事から考えて、複数の人間が宿泊していたと考えて良いと思います」

「ちょっと待てよ。それじゃ、死亡時に誰かが居たって言うのか」

「あの散らかり様なので、鑑識からの報告を待ってみないと何とも言えませんが・・・。出版社の編集者ですから、交遊関係以外にもあった様に思います。パソコン、携帯の履歴を洗う必要があると思います」

「鑑識も、事件性が無いと積極的にはならんぞ」

「了解しています」

Vol.4へつづく