第二の事件 Vol.4

第二の事件 Vol.4

翌朝、八時に清美は404号室の前で、夫の清と待ち合わせた。谷茂は体調不良で欠勤した為、二見課長が同行している。課長自身、自分の目で確かめて置きたいのだろう。清は、約束の時間になっても、一向にやって来る気配が無かった。会社の方に連絡を入れてみるが、「本日は、お休みを取らせて頂いています」と事務員の返答が帰って来るだけだ。妻が死んだばかりで、葬儀の準備に追われているのだろう。それにしても遅過ぎる。何かあったのか?携帯にも入れてみるが繋がらない。「朝の忙しい時間に」と、小田老人もイライラしている。これ以上、待っていてもしょうがないので、取り敢えず、先に中へ入る事にした。小田が窓を開けて置いてくれたので、悪臭は昨日に比べて随分ましになっている。それでも、遺体から流れ出した体液の腐敗臭は、なかなか取れるものじゃない。フロ-リングの板を取り替えないと完全には取れないという。それ程、腐敗臭はしつこく居座るのだ。
改めて各部屋を見ていくと、2LDK全ての空間がゴミで溢れ返り、薄汚く澱んでいた。白かった壁紙はタバコのヤニで赤褐色に変色している。

「こりゃ、男なら逃げ出すな」

二見は別の意味で感心している。

「小田さん、そう言えば昨日から猫の姿が見当たりませんね」

小田は部屋を隈無く捜しながら「変だな」と、シンク下の棚まで調べ始めた。

「ここのマンションはペット可なんですか」

「ええ、今時、不可にしちゃうと入居者だって限られちゃうでしょう」

「昨日、鍵を開けた時、飛び出して行ったんじゃない?」

「それは絶対ありません」

ボケ老人を扱うような問いかけに聞こえたのだろう。小田は露骨にむっとして言い張った。今後の事もあるので、取り敢えず清美は失礼を詫びた。臍を曲げられたままでは協力を得にくくなる。

「管理人さん、ここは分譲かな?」

二見が小田の気持ちを和らげようと話題を変えてくれた。

「このフロアーは全部賃貸ですよ。売り出した時に思ったほど買い手がつかなかったそうで、そのままにしておいても一円も入りませんからね。まあ、どっちにしてもこれはクリーニングが大変だ」

小田は分別ゴミを出す時間だと言って慌てて出て行った。目的だったシステム手帳と携帯は手に入った。それでも清美は部屋の隅々までまだ何かを捜している。

「目当てのもん、見つかったんだろう。これ以上、待っていてもしょうがない。ボチボチ退散しようや」

「そうですね……。変だな、確か昨日ここにあったのに」

「どうした?」

「いえ、ここに熊のぬいぐるみがあったんですけど。何かこの部屋に似合わないと思ったんで覚えてたんですけど。鑑識さん、何であんな物持って行ったんだろう」

Vol.5へつづく