第二の事件 Vol.5


第二の事件 Vol.5

暫く待ったが結局、夫は来なかった。帰り際、管理室に立ち寄った。小田の機嫌はすっかり直っていて、少し渋めのお茶と煎餅をふるまってくれた。小田老人は、住人達の事を細かく知っていた。何号室の人がどうだとか、こちらが聞きもしない事をべらべらとよく喋る。管理人というのは、往々にしてそういうものらしい。一日の大半を一人で過ごす為、他人の事が気になってしょうがないんだろう。逆に、他人に全く関心の無い若者だと、勤まらない仕事かもしれない。一通り話し終えるのを見計らって、清美は防犯カメラの事を切り出した。それまで饒舌だった小田は、急に罰悪そうな仕草をして口籠もった。

「良ければ、記録されているテ-プを拝見したいんですけど」

「一応、在るには在るんだけど、ドロボ-避けが目的だから・・・。参ったなあ~。管理会社から口止めされてるんでね。私から聞いたって言わないで下さいよ。管理室のテレビでね、チェックはしてるんですけどね。いや、こまめに見てますよ。とは言っても録画はしていません。あんなの毎日、録画してたら大変な量になるでしょう。チェックする事も無いし、オ-トロックだから滅多に変なのも入って来ないしね。ビラ巻きぐらいだよ、迷惑しているのは」

エントランスに設置された防犯カメラの記録で、人の出入りをチェック出来ると、安易に考えていただけに、清美は少しがっかりした。

「何処のマンションもそうなんですよ。実際、警備会社とは契約してないし。刑事さん、これって罪になりなすかね」

小田老人は居直っていた。こんなに協力してやってるのに何だ!と、憤慨すらしている。これ以上怒らせると、それこそ今後の協力を得られなくなってしまうので丁寧にお礼を言ってマンションを後にした。

検死解剖の結果は午後になるので、それまで清美と二見は生前、福家法子が勤めていた出版社に出向く事にした。JR中野駅から中央線に乗って飯田橋に向かった。車中、手帳の住所録や携帯のメモリ-をチェックしてみるが、殆ど仲間内だけでしか解からない、仇名や記号で記されている為、本名が確認出来なかった。
駅から五分程、歩いた所にユリアス出版はあった。想像していたのと違って、極端に古い雑居ビルだった。築三十年以上は経っている。予め連絡を入れておいたので、編集長の沢村が快く迎えてくれた。第一発見者の上田もいる。入社したての何も知らないお嬢さんと言う感じだ。身近な者の死に様を見たせいか、ショックが抜け切れていない。沢村はユリアス出版に来る前は、新聞社の社会部記者で警察捜査には熟知していて、清美達が必要とする資料を揃えていてくれた。本人のスナップやプロフィ-ル、これまでに扱ってきた仕事と関係者リスト、その他、編集部の社員達に聞き取りした福家法子に関する噂まで、詳しく箇条書きにしてあった。殆どが好意的なものだった。当たり前だ。死者を悪く言う者は滅多にいない。恨んでいる者は別だが。一つだけ気になったコメントがあった。法子が拒食症だったんじゃないかと言う一説だ。深刻な拒食症患者は食っては吐きを繰り返す。その果てに事故死を招く事も少なくない。

Vol.6へつづく