生霊 Vol.1

生霊 Vol.1

次にやるべき事は決まっていた。法子の夫、清の行動を監視するのだ。必然的にビデオを送り付けてきた謎の男と繋がる。清美はレンタカ-を手配して、源三と供に福家清の勤める印刷会社の前で張り込みを開始した。会社は神田のビジネス街にある為、営業車や2トントラックが多数行き交い、清美達の車が路上に駐車していても、不審に思われる心配は無かった。ビジネス街の朝は早い。ス-ツを身に付けたモ-ニング目当ての営業マン達が、新聞を片手に思い思いの喫茶店に入っていく。ともかく、至る所に店はあった。助手席のシ-トに身を沈めた源三は、DVカムのファインダ-を覗きながら、印刷会社の玄関口に注意を傾けていた。手ブレ機能を使っているが、デジタルズ-ムを最大に駆使して望遠にしているせいで、ビュ-ファインダ-に映し出された映像は粗く現実感が削がれていた。営業マン達は一様にうつろな表情をしている。昨日も終電まじかまで飲んでいたのだろう。たいした休息も取らずに出社し、肉体的にも精神的にもギリギリの状態なのが見て取れる。何とか朝礼に間に合わせ、本日の行動プランを打ち合わせて、休む間もなく各々の得意先へと飛び出していく。新規開拓の場合、夕方までゲ-ムセンタ-や映画館で時間を潰し、ヘトヘトになった表情を実に上手く演じて、帰社してくる要領の良い者も少なくない。悪い者は、クレ-ム処理に一日、明け暮れている。デザイナ-の指定ミスや現場オペレ-タ-の勘違いが大半なのだ。ところが責任は一手に引き受けるのが営業マンの役割だったりする。

カ-ラジオが九時の時報を告げた。玄関口から人の姿が消えている。

「おかしいな、出社してこないじゃない」

源三は今まで撮った映像を巻戻して確認してみたが、清の姿は無かった。昼近くまで二人はじっと待った。張り込みに慣れている清美にとっては何でもないが、源三はいい加減しびれを切らせ始めていた。

「直接、受付に聞いたらええのんと違うか」

「そしたら尾行してますよって、言ってるのと同じじゃない。とは言っても、また出張しているかもしれないし・・・」

「あんたが連絡したら不味いんやろ」

限界を向かえていた源三は、携帯を取り出し、会社の看板に明記された電話番号にコ-ルした。

「すいません、営業の福家さんをお願いしたいんですが」

源三は怪しまれない様に、出来るだけ丁寧な言葉使いをした。事務員の素っ気無い返答が返って来る。

「止めたって、何時ですか?あっ、私、亡くなった奥さんの知り合いの者です・・・・。解かりました。で、至急連絡を取りたいんですが。そうなんですか。有難うございます」

源三は愕然として携帯を切った。法子の葬儀を終えたその足で、清は会社に辞表を提出していたのだ。一応、部長が引き留めたらしいが、清は頑として聞き入れず、引き継ぎもそこそこに止めていったそうだ。事務員に教えられた連絡先は、法子の死んだマンションのものだった。
夕方まで待って、退社していく社員や事務員の何人かに聞き込んでみたが「彼、秘密主義だから・・・」とか、「結構、社内じゃ浮いた存在だったしね」など、誰一人、清のプライベイトを知る者は居なかった。むしろ、口に出しては言わないが、「辞めてもらって良かった」と言いたげなぐらいだ。手掛かりは断たれた格好になった。

Vol.2へつづく