協力者 Vol.1

協力者 Vol.1

窓から強い日差しが差し込んでいた。こんなにぐっすり眠ったのは久しぶりだった。身体が軽く、目覚めがすこぶるいい。テ-ブルの上を見渡すと、昨夜、飲んだビ-ル缶の残骸が所狭しと散乱している。くしゃくしゃに潰した物もあれば、そのまま放置されて転がっている物もある。電気スト-ブは消えていたが、毛布に包まっているので寒くはなかった。差し込んでくる光が眩しく暖かい。
ゆったりとした時間はそう長くは続かなかった。何かに急き立てられて、部屋の中を見回してみると、一緒に居るはずの清美の姿が無い。トイレや風呂の中も確かめたが、痕跡すら残されていなかった。あるのはビ-ル缶の残骸だけだ。いきなり強迫観念に駆られた源三は、咄嗟にDVカムを手に取ってチェックした。指先がカタカタと震えている。また記憶の無いところで、最悪の事態が起こったんじゃないのか? 思考は悪い方へ悪い方へと進んでいった。ビュ-ファインダ-に清美の上半身が映し出される。早送りで先に送ってみるが、変化は無い。高速で進行していく映像は滑稽で、その分、無気味さを感じさせられる。テ-プ残量が五分を切ったところで、画面はプツンと途切れてしまった。ブル-バックが嫌に鮮明だった。少なくとも記録に残されていた間だけは、何も変化が見られなかった。それが直接、安心には繋がらない。テ-プ残量から考えて、僅か120分弱の時間が保障されただけだ。

電話のベルが鳴った。剥き出しになっていた源三の神経は過敏に反応し、飛び上がって「アッ!」と、押し潰した声を漏らした。着信音はいやが上にも神経を逆撫でする。悲鳴を上げそうなぐらい、びくついている神経に抵抗して力任せに受話器を取り上げた。聞き覚えのある声だが、テンションが高ぶっていて、なかなか人物の特定が出来ない。

「私よ。寝惚けないでよ」

「清美か!何で黙って居れへんなった!」

テンションが直ぐに静まることなく、源三は大声を張り上げていた。安堵したのと同時に、悪意の無い怒りが同居していたのも確かだ。一番、重要なのは、最悪な事態に至っていなかったということだが・・・・。

「ニュ-ス見て。大変な事になっているの」

以外にも、源三は冷静だった。何が起きても少々の事じゃあ、驚きもしなかった。思考部分が一端、機能を停止させてしまったのか、麻痺感覚が唯一、源三を支えていたのかもしれない。目覚まし時計を確認するとジャスト12時、ニュ-スをやる時間だ。身体が意志とは関係無く、勝手に動き出して行動を始めた。リモコンを握り締め、電源を入れる。チャンネルを素早く切り替えて甘利の名前を、テロップで追い掛けていった。目まぐるしく動いていた指が止まった。焦点が新幹線、名古屋駅のホ-ムでマイクを手にした女性レポ-タ-に固定されていった。

「昨夜、22時東京発700系のぞみは、定刻通り、23時34分に名古屋駅に到着しましたが、車内を点検していた車掌によってトイレで死亡していた男性が発見されました。所持品から、男性の身元は甘利真吾、36歳。葛西大学の教授で、昨夜、最終ののぞみで名古屋に向かった模様です。警察では殺人と事故死の両面から捜査を行なう模様です。詳しくは司法解剖の結果を待たないと解からないそうです」

レポ-タ-の後方をのぞみが通過していった。耳に押しつけたままになっていた受話器の奥で甲高い声が響いた。

「しっかりして、直ぐに戻るから。あの封筒よ、封筒の中を見て」

Vol.2へつづく