協力者 Vol.2

協力者 Vol.2

一方的に電話が切られ、ツ-ツ-ツ-と待機音のみが残った。己の叫んでいるイメ-ジが頭を過っていった。持っている力を全て出し尽くして叫んでいる。体内にひっそりと息を凝らして宿っている異物を吐き出したかった。あくまで、頭の中で繰り広げられているイメ-ジだ。
現実にはワイドショ-が始まり、結構、気に入っていたアイドルの不倫疑惑が報じられているだけだ。(あの子、何て名だっけ?)思い出そうとするが、一向に思い出せなかった。ヒントすら思い付かない。身体を支えている力が、足元からゆっくりと抜けていって、尻餅をついた。脱力して支えきれない。目の前にジュ-タンの繊維が広がった。イメ-ジ通り叫ぼうとするが、体内には力が残っていない。力とは筋力だ。筋肉繊維が緩んだゴムのように弾力を失っていた。普通ならここで記憶が途切れるはずだ。不思議に保たれている。パニックは起こしていない。至って冷静だ。封筒の中身を見ればいい。残っている力を考えてみた。下半身はともかく、上半身はまだ起き上がる事が出来る。視界を目まぐるしく動かしてみた。気に入ったアイドルが、複数のレポ-タ-とマイクの突起物に取り囲まれている。葱坊主みたいだ。相変わらず、名前が思い出せない。視界を修正する。床に転がった受話器から待機音が拡大されて聞こえてくる。意識を傾けると、別の音だと直ぐに認識出来た。ざわついた雑踏の音だ。足音が反響し、複数の声がダンゴ状に固まっている。相変わらず冷静だ。臭いまで確認出来た。アルコ-ル臭が鼻と口の周りに漂っている。声の人物が特定出来た。視界がビュ-ファインダ-のフレ-ムに甘利の姿を捕えた。

「我々は、ミチエの生霊に祟られたんだ」

甘利の左肩に黒い異物が乗っていた。異物と言うには余りにも実体が希薄だ。黒いモヤと表現した方が良さそうだ。甘利の背後からまとわり憑いている。チカチカして見えるのは1秒間に30フレ-ム可動する全てに記録されていないからだ。

「我々は、ミチエの生霊に祟られたんだ」

このシ-ンは今さっき見たばかりだ。時間が戻ったのか?

視界がいきなり変わった。気に入ったアイドルがレポ-タ-とマイクの突起物に取り囲まれている。これも見た。頭の中は至って冷静だ。目の前に繰り広げられるシ-ンがル-プしているだけだ。永遠とル-プは繰り返されていった。
突然、路地裏の光景が広がった。両サイドに植込みがあり、トンネル状になっている。ゆっくりと歩いていく。行き止まりに、見慣れたアパ-トの壁面が広がった。左側には集合ポストがある。その前を通り抜けて、右側に折れると玄関ドアが幾つも縦列を為して連なっていた。取り囲むようにして建造された壁面の向こうには、小学校がある。ゆっくりと歩いて行くと、291号室の前に出た。ポケットの中を探ると鍵の束を掴んでいる。その内の一本を鍵穴に差し込んでみると、抵抗無くすんなり開いてしまった。ドアを開けて中に入ってみる。足の踏み場も無いぐらい、あらゆる物が散乱し、腐敗ゴミが黒いビニ-ル袋に詰められて山積みになっていた。鼻を突く刺激臭に抵抗はない。ゴミ山を乗り越え、再び突き当たりのドアを押し開くと、もっと複雑に積み上げられたゴミ山が広がっていた。ス-パ-のポリエチレン袋に詰められた球状の物体が団子状に複数、積み上げられ、衣服やカップメンの残骸、雑誌類、スナック菓子のパッケ-ジが層を成して立ちはだかり、天井まで達している。これ以上、前には進めなかった。僅かな隙間から中を覗き見ると、小さな薄暗いホ-ル状の空間が広がっている。付けっぱなしのテレビがチカチカと画面を発光させていた。音は消音されている。静かだ。いきなり黒い布に包まっている『何か』が動いた。ゆっくりと振り返ったように見えた。明らかに、『何か』はこちら側に気が付いている。黒い『何か』は四つん這いのまま、ギイギイと摩擦音を立ててドドドッと猛烈な勢いで近づいて来た。「やばい、逃げなければ」と、咄嗟に頭を過ったが身動きが取れない。摩擦音は凄まじい勢いで接近してくる。昆虫と見間違う様な細長い手足が確認出来た。覗き込んでいた隙間に、黒い『何か』の顔面かと思われる物体がズボッと突っ込まれた。複雑に積み上げられたゴミの壁面を介して、今、まさに目の前にいる。目が合った。生臭い腐臭が広がり、嘔吐感が込み上げていった。この生臭い『何か』を知っている。そう思った瞬間、あらん限りの力を振り絞って絶叫していた。

ル-プ状態から開放され、意識が正常さを取り戻した時には、清美の腕の中にいた。清美の表情が複雑に歪んでいる。呼吸がしずらかった。

Vol.3へつづく