協力者 Vol.5

協力者 Vol.5

清美に促されるまま、源三は大学の研究室に電話を入れ、渡辺を呼び出した。渡辺も既に死んでいるかもしれないという、一抹の不安が源三の脳裏を過った。ミチエに何らかの関係を持った人間が次々に死んでいるからだ。が、電話口に渡辺と名乗る男を確認して不安は直ぐに掻き消された。突然の事故死で研究室がごった返しているようで、品川プリンスホテルのロビ-で待ち合わせる事になった。以前、甘利と面会した同じホテルだ。源三と清美が到着すると、直ぐに渡辺と名乗る男が声を掛けてきた。助手と聞いていたので、もっと若いのかと思っていたら、五十をとうに過ぎた初老の男だった。挨拶もそこそこに、最上階のラウンジへ移動して、窓際の席に着いたが、他の客席は殆ど疎らで人は居ない。渡辺は聞きもしないのに、勝手に自己紹介を始め出した。

「あの私、助手と言っても、殆どセミナ-の運営を任されていたんで研究室や先生の研究とはあまり関わりが無いんですよ。先生が亡くなってセミナ-の会員達がパニックを起こしましてね、今日もここでセミナ-が予定されていたんですけどね。今日は大学と会場を行ったり来たりですよ。クレ-ムが凄くて・・・・。フィ-ルドワ-クの一環として、先生はセミナ-を開催されていましたが、裏方の私は一応、営利的な部分を任されているので、実際、参ってます。今後、キャンセル料なんかで揉めるのは解かっていますから。会員の皆さんからは寄付という形で頂いていますしね」

会計士風の渡辺は、霊とか祟りといった超常現象からはまるで縁遠い雰囲気で、二人は中々ミチエの件を切り出せないでいた。渡辺の興味は、甘利の死より金銭絡みの事が優先しているようだ。話の腰を折ると、情報を上手く引き出せないかもしれない。そう判断した清美は、取り敢えずセミナ-に関しての内情を聞く事にした。

「どの様な目的で教授はフィ-ルドワ-クをされていたんですか」

「特殊な能力を持った者のリサ-チです」

唐突に渡辺から意外な言葉が返ってきた。営利目的の手段として割り切っているにしても、似つかわしくない返答だ。

「どういう意味ですか?」

「境界例と呼ばれる人達をご存じでしょう。実際、病院でも未だ原因が解明されず、薬物治療も効果がないし。まあ、病気とも認定されないボ-ダレスというんですかね。治療法が無い状態で、放置され行き場を無くしてしまう。ここ数年、十代の子供達に多くみられるようで、親はたまったもんじゃありません。結局、何の手立ても無いまま子供達を自室に隔離して、挙げ句の果てに親達が操られてしまうのが現状です。先生はそういった現象と言えばいいんですか、状況を七年前からリサ-チしていたんです。私はその辺になると、全くの専門外ですから」

渡辺は面倒臭さそうに顔をしかめた。清美には思い当たる節があった。丸尾の娘、弥生の事だ。

「その子供達が、特殊な能力を?」

「いえ、いえ。全員がそうだという訳じゃありません。中には面白い力を発揮する者がいるという事です。我々のセミナ-はその御両親に対するカウンセリングがメインでしたから。先生は特殊能力の方に興味を持っていたようですが。そんな事より浅田ミチエに関して聞きに来られたんじゃないですか。私も今後の残務処理やらなんやらで忙しいので、こういう用件は今日で最後にして欲しいんですけどね」 掴み掛かりそうになる自分を源三は必死に食い止めていた。明日、死ぬかもしれない切羽詰った状況下にいる人間に対して渡辺の態度は余りにも無神経だった。清美の目付きが変わった。

「それじゃあ、単刀直入に聞きますよ。甘利教授は何の目的で名古屋に行ったのか。浅田ミチエの娘、舞と恵の所在と、教授が言っていた御祓いとはどういう事か。私達もこんな所で貴方の愚痴を聞いている暇は無いので簡潔に答えて貰います」

渡辺は面喰らったようで、目玉を白黒させた。

「それが人に話を聞く態度か!これじゃあ、まるで取り調べじゃないか」

渡辺は怒りを露にした。源三は内心小気味好かった。切羽詰った状況下に置かれているのは確かだが、それだけに清美の威圧的な態度は快感に近いものがあった。

「セミナ-の内情調べれば、結構、埃が出てくるんじゃない?資格の無い者が医療行為に関わっている可能性があるわね」

渡辺の顔色が極端に変わった。

「ちょっと待って下さいよ。何も私は事を荒立てようとしているんじゃ無いですから。知っている事は全部答えますから」

先程とは打って変わって神妙な表情になった渡辺は、一呼吸置いてから説明を始めた。

Vol.6へつづく