協力者 Vol.8

協力者 Vol.8

清美の叫び声で店内が一瞬、シ-ンと静まり返った。渡辺は回りを気にしてキョロキョロしているが、源三は訳も解からずリストと清美の顔を交互に見比べるしかなかった。高峰は落ち着き払った態度のままだ。

「丸尾一家はミチエの餌食になったんだ」

「餌食って、それじゃ丸尾一家は、ミチエの乗り移った舞によって殺されたとでも?」

怒りというよりも、明らかに清美はうろたえていた。

「この弥生って子も、面白い力を持っていたからね。目を付けられたんだ。ところが、フィットしなかった」

清美は気を失いそうになるのを必死で繋ぎ止めていた。弥生の発揮した能力を目撃したのは自分自身だからだ。否定出来ない事実があった。

「そやけど、やり方が違うやん。法子も教授も腕を飲み込んで、窒息してたんやで。外見上は事故死や」

「そうよ、妻子は刺殺されていたし、丸尾君は服毒自殺だったのよ。こじ付けもいいとこだわ」

高峰は悠然と煙草を吹かした。

「あんた達も単純だね。何人も相手だと、一度に力が発揮出来なかっただけさ。だから直接、手を下したんだ。何れにしても舞の中に居たんじゃ、ミチエは本当の力を発揮出来ない。必ずフィットする人間を捜し出すよ。同時に秘密を知る我々を狙って来る」

「渡辺、参加者の顔写真を用意しなさい」

「いや、これといって写真は撮ってませんから」

「ビデオ撮ってたじゃない。必要なのよ。用意しなさい!」

外観から来るイメ-ジとは程遠い、威圧的な高峰の態度は、渡辺に有無を言わせない。渡辺は顔を強張らせて、走り出て行った。高峰はテ-ブルの上に両肘を突いて、源三と清美に向かって前のめりになってきた。お前達もそうしろ、という威圧的な眼差しに操られ、二人は中年女と顔を突き合わせる格好になって、次に出て来る言葉を待機するしか無かった。

「生霊ってのが納得出来ないなら、ミチエの意志と考えな。乗り移られた人間を捜す事だけに集中するんだ。他の事はゴチャゴチャ考えなくていい。私達の生死はそいつが握っている」

「もう一回、ミチエに面会して、手を打つ方法はないんか」

「さっきも言っただろう。隔離されているミチエの肉体は抜け殻だ。もう一度、言っとくよ。意志は既に本体から抜け出して、自由にうろつき回っているんだ」

「その意志の乗り移った人間を見つけてどうするのよ。さっき、封印するとか言ってたけど、もし特殊な能力を持っているのなら、生身の人間じゃ太刀打ち出来ないんじゃない」

清美の指摘は的確だった。高峰は自尊心を傷付けられて、再び高圧的な態度に出るのかと身構えていたら、意外にも笑みを浮かべて人の良いおばちゃんの顔つきになっていた。

「そっちの方は理解しているみたいだな。デカさんの言う通り、こっちもそれに対抗出来る能力者を用意しなければならない。ミチエの能力は私の持っているものより遙に上回っていた。セミナ-の時、舞と対峙して十分に解かっているつもりだ。だからこの男が役に立つんだ」

高峰の目線の先に源三が居た。言われた本人が一番呆気に取られている。

「俺が?そんな力、持ってないで。力の存在自体を否定するつもりは無いけど」

清美には思い当たる節があったが、それが対抗出来る力だとは、どうしてもピンとこなかった。

「源三にはどういう力があるのか説明して欲しいわ」

「やっと本題に入れるな。この男はパワ-返しが出来るんだ。恵の時、そうやって切り抜けただろう」

「俺が殺したって言うんか!」

思わず声を荒げてしまった源三を、高峰は強い口調で制してきた。

「大声出すな。誰が殺したって言った。ミチエが乗り移ろうとしてきたのを、阻止しただけだ」

「ちょっと待って。貴方は如何して恵が死んでいるとか、そうやって切り抜けたとか、見てもいない事が解かるの?」

そう言った清美が一番アッとなった。高峰は本当に相手が頭の中で考えている事や、もしかしたら記憶まで読み込んでいるのかもしれない。そうすると、源三の失われた記憶を知っている事になる。案の定、高峰は清美が頭の中で考えた思考に対して反応してきた。「さすがデカさんだね。この男は何もやっちゃあいないよ。ただパワ-返しをした時、反動で記憶が吹っ飛んでしまったけどな」

高峰を疑って掛かっている清美だが、今の話しに関しては、何故か自然と受け入れてしまった。実際、源三を疑っていないと言えば、嘘になる。それだけにホッとするような感覚に満たされていったのも、認めざるをえなかった。源三も口には出さないが、内心ホッとしているに違いない。幾分、表情が柔らかくなっている。

「ただね、甘利と私は重要な部分に気が付いていなかったんだ。別の第三者が介入しているのを。私達はミチエの生い立ちまで遡ろうとしていた。甘かったよ。まさか、こんな形で阻止されるとは」

「第三者が介入していたのは、私も認めるわ。東京駅で教授に会った時、間違いなく法子の夫、清が居たのよ」

Vol.9へつづく