協力者 Vol.9

協力者 Vol.9

高峰を全面的に信用した訳では無い。ただ、何の突破口も見出せないまま、死を受け入れるには余りにも不条理すぎる。僅かでも高峰に可能性を見出せるなら、こちら側の情報を明らかにしておいた方がいいだろう。
清美は、これまでに調べ上げてきた一連の流れを高峰に説明した。じっと目を閉じて話を聞いている高峰は、頭の中に映像を再現している様に見える。時折、口元を動かして何かを呟いている。かつて甘利がやっていた様に、呪文を唱えているのかもしれない。

源三は罪の意識から開放されつつあった。失われた記憶の中で、最悪の事態だけは引き起こされていなかった、という確信が強くなっていく。一方で、高峰の言った“パワ-返し“の実態がまるで掴めなかった。自分には一体、どんな力が潜んでいるのか、想像の域を遙に超えている。無意識の中で展開した力を、意識的に発揮出来るのだろうか?能力者達の世界で言う、修業なるものが必要だとしたら、自分はそれ程、高尚にはできていない。むしろダラダラとただれた生活を繰り返してきただけだ。

頭の中に刺すような痛みが走った。痛みと表現すると少し違ってくる。たとえて言うなら、強烈なレ-ザ-光線を照射されたような。そういえば何かの本で読んだ事がある。宇宙飛行士は航海中、時々、目の前で爆発現象を目の当りにするという。スペ-ス・レイと呼ばれる宇宙の無重力空間を飛び交っている光線が、宇宙船をいとも簡単に突き抜け、そのまま脳を通過する。脳細胞の一部は焼き切られ、その瞬間、爆発的なビジョンを目の前で展開させるらしい。スペ-ス・レイによる脳障害という事だが、脳が引き起こした現象といっていい。
源三は清美の方を何気無く見てみた。丸尾一家に関する事、特に弥生に関しての説明をしている。どうやら弥生という子にも特異な能力があったらしい。
再び脳内に刺激が走ったような感覚に襲われる。清美の実像がいびつに歪み、突然、破裂して燃え上がった。

衝撃と共に背後から「エイ!」と、何者かに両肩を叩かれ、気合いを入れられる。振り返ってみると、高峰が鬼のような形相をして立っていた。そのまま清美の方を見ると、鼻血を噴き出して咳込んでいる。何が起こったのか、まるで把握出来ない。高峰がフ-と首筋に向かって息を吹き掛けてきた。生臭い臭気に包まれ、現実感を帯びてくる。

「あんたはコントロ-ルする方法を覚えなきゃならないね。何時までも無意識の中に隠れてたんじゃ、周りの者もたまったもんじゃない」

清美はテ-ブルに置いてあったお絞りを手にして、鼻の周りを拭っている。噴き出した鼻血はテ-ブルの上ににも飛び散っていた。

「源三の能力がこれだって言うの!」

「力は何らかの切っ掛けによって、突如として暴走を始めるんだ。すでにそれは始まっている。急がなければ、この男自体が危ない」

「如何して私に?」

清美が投げかけてくる怒りにも似た視線を直視出来ず、源三は唯々項垂れるしかなかった。周りのテ-ブル席に着いていた客達は遠巻に訝しげな表情をしている。ウエイトレスが「他のお客様にご迷惑になりますので」と退出を促す素振りを掛けてきた為、三人はラウンジを後にするしかなかった。

取り敢えず三人でエレベ-タ-に乗り込んだ。源三は心ここに在らずといった感じだし、高峰は目を閉じて、呪文の様な聞き取りずらい言葉を呟いている。エレベ-タ-が急速に降下した為、必要以上のGが降り掛かってきた。清美は源三の身に起こった特異な現象を思い起こしてみた。ここ数日間、源三の肉体に異変が起こっているのは明らかだ。高峰の言う“切っ掛け“とは何だろう。田所法子のマンションに侵入した時に、それは起こった。次に甘利と会った後、車の中でもだ。その後、何らかの切っ掛けで卒倒している。切っ掛けを確かめるしかない。そう考えながら、清美が「卒倒した時、何があったの?」と尋ねようとしたタイミングに合わせて、まだ聞いてもいないのに源三が勝手に答え出していた。

「DVが勝手に作動して、モニタ-に甘利が映ってた。東京駅で会うた時のや。甘利の後ろに黒いモヤが掛かってた。テレビにはアイドルが映ってて、同じ場面がル-プを起こしてたんや」

清美が質問する前に源三は答えたのだ。頭の中が読まれていると、認めなければならないのか。ノンストップのエレベ-タ-は一階に到着した。不快なGはすっかり無くなっている。そのままセミナ-の為に借りられていた鳳凰の間へ向かった。

「考えている事が読まれたね。まあ、デカをやっていただけのことはある。御推察どおり切っ掛けが重要な意味を持っているんだ」

再び高峰が頭の中を読んできた。清美は徐々にストレスを感じ始めていた。

Vol.10へつづく