プロローグ
身元不明の少女 Ⅰ
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身元不明の少女 Ⅱ
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身元不明の少女 Ⅲ
弥生
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291号室
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9
第二の事件
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リプレイ
見殺し
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再捜査
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生霊
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協力者
潜伏
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果て無き興亡
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再捜査 Ⅱ
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エピローグ
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生霊 Vol.4
甘利が待ち合わせに指定してきた場所は、東京駅の新幹線、中央乗り換え口だった。終電まじかなせいもあって、駆け込む人の数が多い。人混みに紛れる様にして、落ち着き無く辺りを伺っている甘利に、以前、会った時のスタイリッシュな印象は微塵も感じられ無かった。伸ばし放題の不精髭と、ボサボサになった髪の毛、何日も着替えていないだろうと思われる黒ずんだコ-ト姿は、一見すると路上生活者の様にも見て取れなくはない。甘利は源三の姿を発見するやいなや、忙しなく駆け寄ってきて、同行して来た清美に不信感を露にした。「取材に協力してもらっている人です」と、何とか甘利を納得させて、構内にあるカフェに入った。終電待ちの客達でごった返している。源三はDVカムをスタ-トさせてテ-ブルの上に置き、気づかれない様に甘利の方へレンズを向けた。甘利は頻りに時間を気にしている。時間だけでなく、何者かに追われているようだ。これが同じ人物かと思うぐらい、甘利の挙動は常軌を逸していた。
「出発まで10分ぐらいしかないんで、取り敢えず私の話しを聞いて下さい。質問は私が戻って来てからということで」
甘利の発する言葉は聞き取りづらく、ろれつが回っていない。微かにアルコ-ル臭がする。甘利は源三の耳元に顔を近づけ声を押し殺した。
「取材の時、貴方は何か感じませんでしたか?」
甘利が唐突に切り出して来たので、源三は即答、出来ないでいた。清美は独特の観察眼を甘利に向けている。初対面で無作法な男に心ならずとも不快感を抱いているのだろう。「浅田ミチエに面会した時ですか?」
源三は確認するつもりで聞き返したのだが、甘利にとっては違っていたらしい。
「質問は戻ってからって言ってるでしょう。時間が無いんだ。私は今日中に名古屋に行かなければならない」
甘利の緊迫感がいまいち掴みきれない源三は、取り敢えず従うしかなかった。
「私は何も・・・。ただモニタ-のスイッチがONになっていた様に思ったんですが。あの時、教授がスイッチを?」
「私はスイッチなんか触っていない。やっぱりな。思ったとおりだ。今井さん、貴方は私の能力をどう思います?余計な事はいいです。YESかNOで答えて下さい。私に能力があると思いますか?」
源三は即答に困ったが、YESとは言えず「解かりません」と首を振るしかなかった。
「教えてあげますよ。私にはね、あるんですよ力が。ただ私の持っている力は何の役にも立たないんですよ。私はただ見えるだけで、祓ったりする力は無いんです。仮にそれを霊の存在としておきましょう。あそこに居たのは、抜け殻になったミチエの肉体だけで、霊体そのものが存在していなかったんですよ」
源三が再び質問しようとするのを察した甘利は、神経質なまでに首を振って無言の威圧を掛けてきた。
「貴方はこう言いたいんでしょう。我々はモニタ-を通して面会し、ミチエが動いているのを確認したと。ケッケッケッケッケッ~」
無気味な笑い声を立てた甘利を、周りの客達が不審そうに眺めている。
「あの時は、私自身、それが意味する事を把握出来ないでいた。しかし田所法子が死んで確信に至った。我々はミチエの生霊に祟られたんだと。とんでもないものに手を出してしまったんです。私も貴方もこのままでは法子と同じ様に殺される」
源三はすぐには反応出来なかった。「そんな馬鹿な」と、拒絶している訳ではない。むしろ自分の周りで起こっている数々の不可解な出来事と繋がっている様な気がしていた。
「私は死にたくない。ある霊能者に御祓いを頼んであります。私が帰って来たら一緒に受けて下さい」
「教授は何の為に名古屋に?」
「如何しても、確認しておかなければならない問題があるんです」
教授が大事そうに抱えていた書類封筒を差し出してきた。
「預かっておいてください。もし、もしですよ。仮に私の身に何かあったらこれを開けて下さい」
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