福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

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身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

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6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

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6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

再捜査 Ⅱ Vol.4

「もしもし」

明らかに受話器の向こうに気配を感じるが、反応が無い。

「もしもし、もしもし・・・」

暫く繰り返しているうちに、相手が反応してきた。相手と言っても加工された機械的な音声だ。

「東京発19:50、広島行き700系のぞみ。東京発19:50、広島行き700系のぞみ」

ガイダンスは五回程繰り返されて、一方的にプツリと切れてしまった。腕時計を確認すると、十八時を少し過ぎている。清美は、躊躇する事無く東京駅へと向かった。出発まで少し時間があったので、構内にあるカフェでコ-ヒ-を飲む。僅か一ヶ月前に、源三や甘利と待ち合わせた店でテ-ブルも同じだった。当日の事を思い出そうとするが、清美の記憶はモヤが掛かった様に曖昧で、日が経つにつれて輪郭自体が無くなって来ている。無意識下にひっそりと潜んでいる防衛本能が忘却させているのかも知れない。意識的に忘れようとしているといった方が的確なのだろうか。源三への思いは今もリアルに清美の内にあり、より深度を増している。僅かでも気を抜こうものなら、源三への思いの中に溺れそうになってしまう。頭上に轟音が響き渡り、嫌でも現実に引き戻される。清美は改札を抜け十八番ホ-ムへと階段を登っていった。700系のぞみが到着し、乗客が一斉に下車して来てホ-ムはあっという間に人で溢れ返った。清美は群集と逆行しながら自由席の車輌を目指した。

瞬間、清美に戦慄が走り抜けていった。清美は人をかきわけながら無理矢理、車輌に乗り込んだ。擦れ違う人々があからさまに嫌悪感を示している。それでも清美は腕時計を確認しながらトイレを目指した。乗客が全て下車し、今度は乗車する客で各車輌は一気にごった返していった。清美はトイレに辿り着き、飛び込む様にして中へ入っていった。間髪入れずに、出発を告げるベルが鳴り響き、ドアの開閉音と供に車輌は動き出した。もう一度、時間を確認する。

「たったこれだけの時間で、本当に犯行が可能なの」

あの日の源三の行動をもう一度、思い起こしてみる。源三は清を追って十四番ホ-ムまで一気に駆け登っていった。ホ-ム到着と同時に車輌は出発し、間髪入れずに折り返して十八番ホ-ムまで走っていったのだ。この時、源三の行動に関しては清美が自ら後を追う状況で、僅かな誤差を差し引いたとしても、ほぼ間違いない。清は他の車輌の発着が集中していて勘違いしていたんだと言っていた。犯行は自分が確認しているとも。しかし、どう考えても犯行を行なう時間が生じない。清美は確信に満ちた表情になった。

「無理だ。少なくとも甘利に関しての犯行は不可能だ」

清美は自由席の窓際の座席に座った。客席はまばらで空いている。窓外の風景が加速して流れていく。改めて冷静さを欠いていた己の未熟さを思い知った清美に、捜査員としての意識レベルが一瞬にして高まっていった。事件は始まったばかりだ。清の言う事を鵜呑みにしてしまえば真相から遠ざかってしまう。
名古屋駅に到着して多数の観光客が乗り込んで来た為、座席はあっという間に一杯になり自分の通路側の座席にも若い男が座り、車輌内は圧迫感に包まれていった。発着の合図を告げるベルが鳴り響く。清美の脳裏に不安が過る。一体、自分は何処に向かっているのか?もしかして、名古屋で降りなくても良かったのか。名古屋は浅田ミチエの実家があり、甘利が最後に目指した地でもある。慌てて腰を浮かせて降りようとしたが、窓外の風景は既に加速し始めていた。軽く溜息を吐いて座り直したところに、隣の若い男が声を掛けてきた。

「行き先は任せて下さい」

聞き覚えのある声だった。若い男を観察してみる。上下黒のス-ツ姿にサングラスと鳥打帽の若い男はサングラスを外して笑いかけてきた。

「谷茂」

Vol.5へつづく

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