福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

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身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

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6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

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6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

身元不明の少女 Ⅱ Vol.1

身元不明の少女の死因は事故死とほぼ断定され、あとは検死解剖の結果報告を待つのみだった。事件性はなく、わざわざ刑事課が動くまでもない。身元は少年課の捜査員がここ一年提出された家出人捜索願いのリストをしらみ潰しに当たっている為、割り出されるのは時間の問題だろう。万が一、判明しなくても、行旅死亡人として処理されるだけだ。ただ、未成年の少女がうらびれた飲み屋街で死んでいた事態に、マスコミは特有の嗅覚を働かせているのも確かだった。

「10代の女の子が何も持ってないのはおかしいですよ。普通携帯は必需品でしょ、いまどき、小学生だって持ってるし、アレですよ、アレ。別にたいした用もないのに、スケジュール帳とかも持ってるし」

今年、巡査部長の昇任試験に受かったばかりの若い捜査官、谷茂の言うのも一理あるが、中川清美は別のポイントに引っ掛かっていた。

「そんなの置き引きされてる可能性もあるから。こだわるならもっと別の所にこだわった方がいいんじゃない」

「警部補、それじゃ、やっぱ今井のおっさんが関与した可能性があるってことですか。しらばっくれてるけど、あいつ、ねこババしてるんですよ。携帯とか財布と手帳も。今頃アドレス検索してあっちこっち掛けまくってますよ。一人や二人ヒットして、ただでエンコーかましてるってことですか。テレクラと違って生々しい情報ですからね」

「そういうことじゃなくて、私が言っているのは少女が死んでいた状態よ。現場で見たでしょう。15年も刑事課にいて、あんな死に様拝んだのは初めてよ」

「そんなに変でしたか?死体、見るの初めてだったもんで……。実はよく見てなかったんですよ」

照れ笑いした谷茂の顔が、意地汚く哀れな者として清美の目に映った。今年、配属されてきたばかりの新米だからしょうがないと言えばそれまでだが、課長に命じられるまま教育係として1年近くこうしてペアを組んで来たけれど、どうもあの媚びるような目をして引き攣った作り笑いは生理的に拒絶してしまう。化石化した言葉を使えば、ひたむきさとか、一生懸命さがまるで感じられないのだ。「警部補、警部補」と馴れ馴れしくへばり付いては来るが、内心、もうすぐ40にもなるくせに、昇進することしか頭にない哀れな女だとでも思っているのだろう。いや、既に女としては見られてはいない。署内でもそういう雰囲気は流れている。事実、警部に向けての昇任試験をターゲットに時間さえあれば参考書と格闘しているのも確かだ。これまでに「賞詞」の表彰を3度も受けている。所轄の中では出世頭と言っていい。同期採用の女性捜査官で残っているのは自分一人だけで、あとは皆、結婚してそれなりに納まっている。厳密に言うと、離婚した者もいれば死んだ者もいるが、今更そんな事を言っても始まらない。今の自分自身に納得しているのだからそれでいい。 谷茂の顔は亀の顔に似ているなと思いながら、再び少女の死にざまがよぎった。

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