プロローグ
身元不明の少女 Ⅰ
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身元不明の少女 Ⅱ
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身元不明の少女 Ⅲ
弥生
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291号室
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9
第二の事件
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リプレイ
見殺し
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再捜査
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生霊
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協力者
潜伏
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果て無き興亡
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再捜査 Ⅱ
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エピローグ
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見殺し Vol.3
清美は我耳を疑った。
「遺書?」
美濃部の発した言葉は頭の中で上手く像を結ばなかった。
「遺書ってどういう事ですか?丸尾教授がどうかしたんですか」
清美は言い終わらぬ内に、最悪の結末を連想した。次に美濃部が発した言葉は、それを裏付けるのに十分すぎる内容だった。
「教授は妻子を刺殺して、自らも命を断った。お前は事前に相談を受けていた。こうなる前に、対処出来た筈だろう。何もしないで見殺しにしたんだ!」
思考回路が上手く機能しなくなっていた清美は、その場に立っているのがやっとだった。膝がガタガタ震え、毛穴という毛穴、全てから不快な汗がにじみ出していたが、反対に身体は冷たく冷えきっていた。耳の奥でバックノイズが反響し、リバ-ブが大きく掛かっている。異様な速さで血流が全身を駆け巡り、胃が心臓の鼓動とシンクロして激しく波打っていた。美濃部は清美の状態などお構いなしに罵倒した。
「お前はかつて、俺の同僚を死に追い遣った。今度もまただ。一体、何人見殺しにすれば気が済むんだ」
清美の脳裏に「見殺し」というワ-ドが深く刻み込まれた。丸尾は目黒の屋敷で睡眠導入剤を使って無理矢理眠らせた娘、弥生を、台所にあった文化包丁で、計二十ヶ所に渡って全身を突き刺し刺殺していた。特に顔は殆ど原形を留めていなかったそうだ。続いて妻、道子と生後二ヶ月の乳児を、同じく文化包丁を使って刺殺した。遺体は丸々二日間、そのまま放置され、その間、丸尾は遺書を書き遺体と供に暮らしている。文面には清美に対する恨みつらみが多数、書き記されていた。娘の難病を悲観した無理心中だった。事件は丸尾が自ら警視庁宛に送り付けた告発文のメ-ルで発覚していた。清美の状況は瞬く間に劣悪な変化を遂げていった。署内の誰もが清美を非難し、罵倒した。手を差し伸べてくれる者は一人もいない。美濃部が敢えてリ-クした為、マスコミは挙って清美を誹謗中傷した。決して触れられたくなかった清美の過去が、無神経に暴露されていった。
かつて合同捜査で清美は美濃部の同僚、我孫子とペアを組んだ事があった。かたや警視庁のエリ-ト刑事であり、中野署に配属されたばかりの清美は野心の塊で、我孫子に何度か取り入って警視庁へのパイプを築こうとしていた。美濃部はそんな野心剥き出しの清美を非難したが、我孫子は清美の魅力に引き込まれてしまい、仕事を越えて深い関係になっていった。お互いの利害関係は一致していた。我孫子は一時の肉欲を満たし、清美は警視庁との太いパイプが築ければよかった。二人の関係はダラダラと続き、ズブズブの状態に陥っていく。そんな中、我孫子に縁談話が持ち上がる。警視総監の遠縁にあたる良家の娘で、我孫子にとっては願ってもない話だ。当然、出世は強い絆で約束されたのだ。我孫子は迷うことなく清美との関係を清算し、良縁を受け入れる。野心だけが支配していたはずの清美だが、何時しか我孫子との関係を真剣に考え始めていたのも事実だった。危機感を覚えた清美は我孫子を欺いて、わざと妊娠してしまう。元々プレッシャ-に弱かった我孫子は、清美との関係を断ち切れず、良家の娘との間で板挟みになりながら、苦しみもがいていく。突破口が見出せないまま、遂には心労のあまり、我孫子は清美殺害を企てる。殺人未遂罪で逮捕された我孫子は、拘留中に着ていたシャツで首吊り自殺を遂げてしまう。
自ら招いてしまった最悪の事態にショックを受けた清美は流産し、女としての部分は停止したまま以降、動き出す事は一度も無かった。
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