福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

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身元不明の少女 Ⅰ

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身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

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弥生

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291号室

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6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

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6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

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再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

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6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

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果て無き興亡

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再捜査 Ⅱ

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エピローグ

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リプレイ Vol.2

次に意識を取り戻したのは、通い馴れた図書館の閲覧コ-ナ-だった。数日前の新聞に福家法子(旧姓、田所法子)の死亡記事が掲載されていた。源三の欠落した記憶の中で田所は死んでいたのだ。状況は一変した。全てに於いて頼みの綱だった田所が死に、それと同時に、希望が強制的に断ち切られてしまった。大袈裟に言う必要はない。単純にまた無職に戻っただけだ。問題はそんなことじゃない。もっと深い部分で何かが狂い始めている。SEXした、まさにあの直後、田所は死んでいる。いや、最中かもしれない。僅かな断片以外、全く記憶がない。“憶えていない“は果たして通用するのか。答えはこう出る。事故死であればイエスだ。身元不明の少女で一度経験している。今度も同じだ。果たしてこれでいいのか?二人の死に、それも間際に関与している。田所とは欲望剥き出しのSEXをした。少女ともやっていたかもしれない。良い思いをした代償として受け入れる手もある。代償って何だ?二週間の間に二人の女の死を看取ったという意味か。SEXをしただけじゃないか。誰もが受け入れるべきものなら、迷わない。引っ掛かるのは「自分だけが如何して?」という歴然たる事実だ。更に救われないのは、気持ち良い瞬間が殆ど記憶に残っていない事だ。逆に与えられた特別の役割なのか、とも考えてみる。孤独な死を迎えた寂しい女達の、今際の際の声を聞いてやる変わりに、御褒美としてのSEXなのか?
思考回路が悲鳴を上げている。たとえ作動しなくとも、動物的な感は、確実に危険から遠ざけてくれるだろう。今、まさにそうだ。暖かい場所に回避している。プロレス中継が放映されている50インチの巨大モニタ-の前で、座り心地の悪い一人掛け用のソファ-にタオル地のガウンを着た自分が埋もれていた。わざわざ仮眠室へ行かなくても、ここで眠る事が出来る。現に何人もそうして熟睡中だ。大切な物はロッカ-に預けてある。強烈な睡魔が現実から大幅に逃避させてくれる。軍資金は殆ど手を付けていない。手首に巻いておいたロッカ-のキ-だけが、自分を繋ぎ止めていてくれる。これだけは決して盗まれてはならない。源三は薄れゆく意識の中で、キ-を握り締めていた。

引っ越しの多い少年時代を過ごした。行った先の小学校の登校初日は何時もいじめられた。転校生への儀式だ。洗礼を受けた次の日は起き上がれず、登校出来ない。一番強い奴、二番目、間に何人か居てパシリと、自然に子供コミュ-ンを把握する。親の力関係が大きく影響しているのを後に知る。取り入るのは、二番目だ。それから一番強い者の僕となる。勿論パシリへの配慮も忘れない。当分の間、コミュ-ンの中で三番目をキ-プする。それが生きていく為の知恵だ。ただし必要以上に親しくなってはならない。また引っ越して別れる羽目になるから、それまでキ-プ出来ればいい。別れが悲しい訳じゃない。面倒臭いだけだ。順列は時にして入れ代わる。頭の良し悪しだったり、運動能力だったり、解かりやすいのは身長だ。大きくなればその分、強くなる。気が付いたら一番強い奴と対等になっていた。奴の名前は思い出せない。知らぬうちにコミュ-ンから弾き出されて孤立していた。寄り付く友達は一人もいない。何故なら僕がコミュ-ンを牛耳っていたからだ。殺意があったかは憶えていないが、精神的ないじめ方は半端じゃなかった。方法は簡単だ。徹底的に無視をする。存在を認めないのだ。
あの日の事は忘れない。鈍より雲っていた。何時も集まる公園。段違いの鉄棒以外、何も無い。缶蹴りをやっていた。たいして面白くもない。奴が近づいて来る。当然、僕達は無視を決め込んだ。それでも奴は「一緒に入れてくれ」と、しつこく懇願してくる。必死の形相だ。拒否出来なかった。コミュ-ンは、かつてのボスを交えて夢中で缶蹴りをやった。気が付くと、辺りは薄暗く闇が迫って来ている。解散する時が来た。奴は手を振りながら「ありがとう」と、駆け出して行った。本当に嬉しそうだ。何故だか僕も嬉しかった。帰って暫くすると、奴の家から電話があった。母親は僕の手を引いて奴の家へと急いだ。遊んでやったお礼なのか?それとも、これからも遊んでやってくれとお願いされるのか?何れにしても悪い気はしない。奴の家は町内一の豪邸で、父親は町長の職に就いている。初めて奴の豪邸に入った。長い廊下と数え切れない程の部屋。二階へ続く階段は赤いジュ-タンが敷き詰められている。奴の母親が僕達をリビングに招き入れ、しきりに「ありがとう」を連発している。高い天井から吊り下げられたシャンデリアがキラキラ光っている。それからまた別の部屋に連れていかれ、襖が開けられた。僕は中に入って目撃したものを、その時はすぐに理解出来なかった。真っ白い着物を着た奴が蒲団の上で寝かされていた。頭に三角形の白い布を巻き付けている。印象的だったのは、鼻の両穴に白い綿を詰められていた事だ。奴は自分の部屋で、革のベルトを首に巻き付けて発見されたらしい。机の上にメモがあった。僕の名前と一緒に「遊んでくれて、ありがとう」と、書かれてあった。

Vol.3へつづく

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