福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

協力者 Vol.3

「良かった。もう少しで窒息するところだったのよ。発見が早かったから応急処置で済んだけど、本当に良かった」

「俺は・・・・」

続いて言葉が出なかった。自分の身に一体、何が起ったのか把握出来ないまま、涙目になっている清美を観察してみると、口元が吐瀉物に塗れている。ゴクンと唾を飲み込むと、甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がり、胃酸特有の嫌な臭気が、自分にまとわり付いているのを認識した。清美は気管に詰まった吐瀉物を吸出して、延命処置を施してくれたのだ。発見がもう少し遅れていたら、死んでいたかもしれない。呼吸をする度に肺の辺りか痛んだが、この痛みこそが生きている証だ。安心は出来ない。再び同じ危機に陥る可能性がある。現に甘利は死んだ。一度、助かったからと言って、ミチエの怨念から開放された訳じゃない。昨夜から身体の異変が頻繁に起こっている。常に死と表裏一体の関係にあるのは確かだ。体験しているだけに恐怖が一段と増してくる。またなるんじゃないかと神経症的な恐怖が、再び最悪の事態を招く可能性を高めてしまう。常識の中に居ては回避出来ないだろう。非現実的な世界に足を踏み入れるしかない。しかし、祟りに関して清美は否定的だった。

「あの場に清が居たのよ。あの男が関与している可能性だって、十分考えられる」

「手口は何や?どうやって事故死に見せ掛けるんや」

「それは解からない。だけど全て祟りに置き換えるのは納得出来ない。だって、貴方は生きているじゃない」

「俺が死んだら信じるんか?」

「やめてよ!」

清美の怒鳴り声は、生存への執着心を改めて確認させてくれる。

「悪態つけるなら、もう大丈夫ね。封筒の中身、何だったの?」

源三の回復を見計らって、清美が確認してきた。

「まだ見てへん。電話があって、見よう思たらあんな事になって」

源三は本棚の方を指差した。半ば強引に甘利から手渡された封筒は、本棚の隙間に突っ込んでおいたのだ。布製のガムテ-プでぐるぐる巻にロックされていた封筒を拾い上げた清美は、慎重にテ-プを剥がしていった。重量の大半はテ-プが占めているようだ。一通り剥がし終えると、中からA4サイズの保存袋が姿を現わした。更に中身を損傷しないように開封すると、レポ-ト用紙一枚とハガキサイズの小さな封筒が納められていた。レポ-トには手書きの文字が乱雑に綴られている。慌てて走り書きしたようだ。あの狼狽振りからして、容易に想像出来る。清美はレポ-ト用紙に書かれている文面をざっと読んでから、小さな封筒の中身を確認した。清美の表情が見る見る内に変わっていくのを源三は見逃さなかった。清美は源三の方を見て、中々、次の一言を言おうとしない。嫌な沈黙が二人の間に流れた。しびれを切らせた源三が口火を切った。

「何て書いてあんねん。黙っとったら、解からへんやろ!」

感情の高ぶりを押えられなかった。と言うより、永遠と続いていきそうな沈黙に耐え切れなかったのだ。清美は明らかに萎縮している。オドオドした焦点の定まらない視線で何かを訴えようとしていたが、言葉にならないままだ。言い知れぬ怒りが吹き上がった。

「言わんかい!」

源三の怒声がきっかけを作った。清美は口元を小刻みに震わせながら、重い口を開いて読み上げていった。

「もしもの事を考えて、私が知り得た事実を書き留めておきます。浅田ミチエに面会後、田所法子の死によって私は確信を得たのです。これはミチエ自身の生霊の仕業だと。私はミチエの周辺を調べ、必然的に過去へ遡る事になりました。18年前、ミチエは逮捕された時、妊娠していました。最初の措置入院先で双子の女子を出産しています。姉の名は舞、妹の方は恵と名付けられました。出産後、直ぐにミチエの両親である一ノ瀬夫婦に引き取られたようです。一ノ瀬家は愛知県豊田市にあり、舞と恵は小学校を終えるまで、そこで暮らしていましたが、卒業後、一家は東京へ移り住んでいるのです。川中精神病院で調べたんですが、舞と恵はミチエに面会した記録がありました。舞と恵が何らかの鍵を握っていると私は考えています。なお、同封した写真は舞と恵の小学校卒業時に撮られたものです。切り札になるかもしれないので、大切に保管しておいてください。私が戻るまでに、もし何かが起こるようなら助手の渡辺を訪ねてください」

清美が写真を差し出してきた。瓜二つの少女が並んで写っている。受け取った写真を見た源三は、全身を震わせて叫んだ。

「これ、身元不明の少女や!」

源三は居酒屋で入手したポラロイド写真と比較しながら、何度も見比べてみた。舞と恵の何方か判別はつかないが、同一人物なのは歴然たる事実だ。全身の力が足元から抜けていった。

Vol.4へつづく

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