プロローグ
身元不明の少女 Ⅰ
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身元不明の少女 Ⅱ
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身元不明の少女 Ⅲ
弥生
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291号室
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9
第二の事件
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リプレイ
見殺し
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再捜査
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生霊
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7
協力者
潜伏
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9
果て無き興亡
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再捜査 Ⅱ
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エピローグ
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果て無き興亡 Vol.1
遙か彼方で鳴っていた。ポツポツと断続的な音が響いてくる。音はフェ-ダ-をゆっくりMAXに向かって上げた感じで大きくなっていく。違う質感の音も一緒に立ち上がってきた。ミックスされると継続的に流れるシャワ-のように聞こえる。雨か。雨が降っているんだ。更にフェ-ダ-が上がり、雨音を一瞬、消し去ってしまう轟音が空間いっぱいに拡がった。突風が吹き荒れているのだ。金属とガラスが擦れ合う耳障りな騒音が気になってしょうがない。外は嵐なのか?外ということ、ここは何処なんだ。一体、自分は何処に居るんだ。不安定な浮遊感からいきなり落下した瞬間、強烈な反発力に跳ね返されて意識が復活した。上半身を急激に起こした清美は、胸部に圧迫感を覚え、無理矢理、吸ったり吐いたりしなければ息が出来ない状態にあった。喉が奥の方でゼイゼイ音を立てて唸っている。頭全体が重く僅かでも振ろうものなら、鈍痛が頭皮を突き破って脳髄まで到達しそうだ。恐ろしい程の吐き気と腐臭が拡がった。激しい雨と突風が轟音となって室内を圧迫していた。窓外からは外灯の光が漏れてきているだけで薄暗かったが、輪郭は把握出来る。何かに急き立てられて「あっ!」と叫んだ途端、飛び起きてはみたが、足が絡まって一歩も前に進めず、再度、床に叩き付けられていた。身体全体が麻痺している。特に手足が酷い。顔面は硬直した状態で、口を開けるのも困難だ。やっとのことで四つん這いになった。腹の底から有らん限りの力を搾り出したが、声にならない。ここは私の家だ。源三とマスタ-と高峰が潜伏している私の家だ。
「あっ!!」
寝ているはずの源三が居ない。
「源三!」
悲鳴に近い叫び声を上げていた。麻痺した身体に逆らって無理に立ち上がり、視界に飛び込んできたドアに体当たりして隣の部屋に飛び込んだ。間違いなく飛び込んだ筈だ。次の瞬間、強烈な圧力に跳ね飛ばされて、意識の大半を失いながら床の上に投げ出されていた。こちら側も外窓から外灯の光が漏れてきているだけで、殆ど見えなかった。焦点が定まらない状態で窓側に目をやると、視界に二人の人物を捕えたが、シルエットになっていて誰だか特定出来なかった。
「源三!源三!」
呼び続けるしかなかった。意識が緩やかに戻ってくる。シルエットになった人物の一人が近付いて来て、覗き込むような素振りをしてきた。柑橘系の鼻を付く嫌な匂いがした。この匂いは以前、嗅いだことがある。そう思った瞬間、背筋に悪寒が走り抜けていった。「お前は・・・」
ブ-ンと電気的なノイズ音がして、テレビのモニタ-が直視出来ないほど発光した。室内がぼんやりと浮かび上がり、柑橘系の匂いを放つ人物の顔が、はっきり確認出来た。
「清!」
反射的に後方へ逃れようとしたが、全身が麻痺していて力が入らず、叫ぶしかなかった。
「源三は!源三はどこ?まさか舞に!」
清の隣に頬がこけた男の顔が浮かび上がった。見たこともない顔だ。二人は何も言わず、冷ややかに自分を眺めている。源三が殺された。マスタ-や高峰の姿も無い。最後に自分も。清美の中で怒りと恐怖が交差した。全身が震えだし、冷たい汗が背中を伝っていった。窒息しそうなぐらい呼吸が上がっている。どうせ死ぬなら、最後に舞を確認したい。清美は舞の姿を追ったが、暗くて確認出来なかった。薄暗い室内に浮かび上がっているのは、清ともう一人の男だけだ。清が目の前に何かを差し出してきた。『殺される』と直感した。清美は堅く目を閉じて、抵抗するしかなかった。身体の震えが止まらない。奥歯がガチガチ音を立てている。
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