福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

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身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

再捜査 Ⅱ Vol.3

二人は暫く見詰め会ったまま沈黙を守った。最初に破ったのは谷茂だ。

「年末に公安のある部署が解散になりました。直ぐに新しい部署が設立されて、どうやら美濃部さんがそこの主任に抜擢されるようで、予算も例年とは比較にならない程の額が決まったと言うことです」

「つまり・・・」と言い掛けて、清美は口を継ぐんだ。今井源三に対しての公安活動は、自分以外に知る者は居ない。着任そうそうの美濃部は恐らく把握していないだろう。徹底した秘密主義は、時にしてチ-ムという幻想すら、いとも簡単に拒絶してしまう。

「忠告は有り難く受け取っておくわ。あまり長居すると不味いから、今日のところは」

清美が立ち上がろうとすると、谷茂が情けなさそうな表情になった。

「やっぱり僕じゃ、未熟ですか」

「そういう事じゃなくて」

「いや、いいです。でも、何かあったら必ず連絡下さい。出来る事は何でもします」

そう言い残して、谷茂は店を出ていった。谷茂の後ろ姿を見送りながら、既に清美は孤独感から開放されていた。少し遅れて店を出た清美は、靖国通りでタクシ-を拾い自宅マンションへと向かった。初詣での客でごった返した通りを抜けると、閑散とした風景が嫌でも飛び込んでくる。凍り付いた部屋に辿り着いた時には、午前二時を過ぎていたが、清美の頭の中はすっきりとモヤが晴れた様になって覚醒していた。ガススト-ブを点火すると、ほどなくしてリビングル-ムは暖を帯びてきて、脳が活発に展開し始めたのを清美自身、驚いたぐらいだ。二見課長の捜査ノ-トを捲ってみる。読み進めていく内に、清美の表情が見る見る変わっていった。そこには清美がかつて死に追い遣った我孫子の事が詳細に記されていた。清美の脳裏に、当日の状況がめくるめく展開していく。

どしゃぶりの雨の中、我孫子に突き飛ばされた清美は、後頭部を強打し、意識を失った。その後の記憶は無い。捜査ノ-トは我孫子の供述調書が記されていた。対処出来ずに混乱していた我孫子は美濃部に助けを求め清美殺害計画を持ち掛けるが、直前になって美濃部の裏切りで計画は発覚し我孫子は逮捕されている。皮肉にも美濃部は清美を救出した格好になっていた。これは公開されていない非公式な情報だが、二見課長は当時この事件に深く関わっていたのは間違い無い。事件当時、混乱した状況下で、清美は何一つ詳細な事は知らされていなかった。警察内部で起こった不祥事の殆どが隠蔽されていたからだ。事実としては、殺人未遂を引き起こした我孫子が拘留中に自殺したという事だけだ。

「美濃部が関わっていた。でも何故、今頃になって課長はこんな物を・・・」

ノ-トの最後に、最近書かれたと確認できる電話番号の走り書きが記されていた。

「一体、どういう意味なの。課長は私に何をやらせたいの」

清美はハッとなった。

「そうか、谷茂や課長に公安が張り付いてるって事は、この私にも。美濃部がそれを指揮しているんだ。この番号は連絡網」

携帯を取り出し、記された番号に電話しようとして、清美は直ぐに思い止まった。朝になるのを待って、清美は通勤ラッシュの人混みに紛れ込んでいった。電車を何度も乗り継ぎ、張り付いているであろう追跡者の目を逃れるのが最大目的だ。適当なホ-ムで下車して喫茶店に入ったり、立ち食いそばを食べたりもした。緊張感のある行動が食欲を復活させたようだ。昼過ぎからは住宅街を当て度も無く散策し、夕方になってうらびれた公園に辿り着く。四方八方に木々が生い茂り、周りからちょうど死角になっている。公衆便所のよこに設置された公衆電話は既に誰も使用する者が居ない様子で、薄汚れて朽ち果てていた。清美はブランコに乗ったり鉄棒にぶら下がったりして、辺りを注意深く観察した。人は誰も居ない。街灯の無い公園は薄暗く犯罪の温床になりやすい為、住民達は敬遠しているのだろう。周辺に細心の注意を払いながら、清美は二見課長の捜査ノ-トに記されていた番号に電話を掛けてみる。コ-ル音が耳元で鳴り響いている間も注意を怠らない。長いコ-ルの後、突然ガチャンと音が変わり相手が出た。

Vol.4へつづく

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