福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

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身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

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6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

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身元不明の少女 Ⅰ Vol.5

源三は全てのニュースをザッピングした。ほぼ同じ内容でリポーターは警察発表の原稿を読み上げている。各チャンネル全て一致していた。

「推定年齢14歳~23歳の女性、所持品はなく身元不明。なお、死因は外傷がなく、薬物反応も検出されなかったことから事故死と判明したもようです。詳しくは検死解剖の結果を待たないと分からないそうです」

画面に見覚えのある情景が映し出される。

「警察では事件性が無いと、見ているようです」

細い路地に規制線が張り巡らされ、手前を報道のクルーがひしめき合っている。奥にピンクの看板が発光していて『ネコ』とはっきり読み取れる。週に一度は顔を出す馴染みのバーだ。あとから素人が白いペンキを上塗りしたムラだらけの安っぽいドアも、映像を通して見ると実像とかなり掛け離れている。少女が死亡時に着ていた服装のイラストへと画面が切り替わった。上下揃いの白いスェットで特徴が無い。さっき見せられたポラロイドの少女が突如、頭の中に焼き付けられたようになった。消そうとしても消えてくれない。「責任」と書きなぐられた歪な文字がダブル。耳元で怒鳴られたみたいな破裂音が直撃して、次の瞬間、身体は吹っ飛んでソファーにうずくまっていた。音のした方を慌てて見るが、誰もいない。いるわけがない。刑事達が帰ったのは随分前だ。なのに、生々しく耳の奥に残る女の叫び声は誰だ。聞き覚えがない。

「俺は、いったい……」

全身をビリビリとした感触が覆い尽くした。体温が急激に低下し、鼓動が速い。口の中がカラカラに乾いているのに、顔面は冷たい汗が吹き出し、指先は10本ともしびれきっている。左半身が急激に麻痺を起こした。呼吸が荒い。思い通りにならない身体に反して頭の中だけは目まぐるしい思考を繰り返している。

-俺は何かとてつもない圧力で身体ごと吹っ飛んだ-
-圧力は間違いなく女の叫びだった-
-誰の声だ。聞き覚えがない-
-まさか死んだ少女の断末魔の叫びなのか-
-俺に責任があるのか-

口をついて出た言葉じゃなかった。唇は麻痺して小刻みに痙攣している。人から見れば半開きになった口元からシューシューと息が断続的に洩れているだけだ。耳の奥深く羽と羽が複数擦れ合う雑音が続いている。バイオリンを死ぬほど下手に弾いたらこんな感じになるかも知れない。30センチ四方の段ボール箱の中に、数千匹のエンマコオロギをぎゅうぎゅう詰めにしたら、なお近い。耳鳴りが突然、治まり半身麻痺が空気中の別の場所に吸い込まれていった。身体は解放され、静寂が全身を包んでいった。

身元不明の少女Ⅱ Vol.1へつづく

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