福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

果て無き興亡 Vol.2

「見て下さい」

清が何か言っている。

「貴方は勘違いしている。ともかく見て下さい」

目が開けられなかった。開けた瞬間に殺られる。

「中川警部補。我々は貴方の仲間です。まず、これを見て下さい」

清が喋っている事が理解出来ない。

「落ち着いて下さい。我々は貴方に危害を加える積もりはない。話を聞いて欲しいのです。身分証を確認してください」

どう言われても、もう終わりだ。私は舞に殺される。源三のパワ-返しは通用しなかったんだ。こんな結果になるなら、潜伏せずにキャンピングカ-でずっと移動していれば良かった。清美は後悔の念で押し潰されそうになった。時間感覚が既に無い。恐ろしく長い時間が経過したように思えるだけだ。身体を硬直させて震え続けていた為、抵抗する力が残ってはいなかった。堅く閉じた目の周りの筋肉がピクピク痙攣している。閉じていることさえ限界になった。恐いといった感覚ですら麻痺している。清美はひくついた瞼をゆっくり開いていった。目の前にペンライトで浮かび上がった身分証があった。顔写真は清だ。知っている。だが、書かれている字面を追えるほどの冷静さは、持ち合わせていなかった。

「我々は公安部所属の者です。認識番号を確認して下さい」

清の発する声は抑揚が押えられていて、諭されるような感じがした。言われるまま、清美は身分証に書かれた字面を何度も追った。次第に思考回路が回復してくる。名前も生年月日も無く、認識番号だけが記されていたが、本物であることだけは確かだ。

「職務上、身分は明らかに出来ませんが、我々は警視庁公安部の者です」

清美は納得した素振りをするしかなかった。相手からして見れば、やっと落ち着きを取り戻したように見えたのかもしれないが、実際、抵抗するだけの力が残っていなかっただけだ。僅かに回復した思考回路以外、放心状態なのだ。

「源三は?」

清は首を振った。死んでもう居ないということを表わすゼスチャ-か?

「舞は、舞は何処?死ぬ前に確認しておきたい」

「舞?舞なんて居ませんよ」

「エッ?」

清と清美の会話は噛み合っていなかった。もう一人の男がしゃがれて聞き取りずらい声を発してきた。

「落ち着きなさい。部屋の電気を付けますから。心配しないで、私達は貴方に危害を加える積もりは無いですから。話をしたいだけです。いいですね」

もう一人の男が念を押してきたので、清美は頷くしかなかった。カチッとスイッチを入れる音がして、室内が一気に明るくなった。清美には眩し過ぎて視界を確保出来ない状態になったが、時間が経つにつれて徐々に正常さを取り戻していった。今度は男達の姿がはっきり確認出来る。清は以前、会った時と同じく、色白で病的に薬太りしていた。もう一人の男は身長が異様に低く、印象としては人がミイラ化する直前のような風貌だ。二人の姿を改めて確認すると、あんなに恐れ戦いていた自分が嘘みたいに感じられた。清が清美の状態を判断して、再度、萎縮させないように柔らかい口調で話しを始めた。

「我々がここに到着してからも、貴方は丸二日間、眠っていたんですよ」

「二日間?だって強制捜査は明日でしょう」

清は小男と顔を見合わせた。

「やはり、そうでしたか。強制捜査は二日前の早朝に行なわれましたから、少なくとも貴方は三日間ぐらい眠りっぱなしだったということになりますね」

Vol.3へつづく

次回・4/11(木)Up予定

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