福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15
w

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

身元不明の少女 Ⅱ Vol.2

少女は自分の左手の拳を、口の中いっぱいに無理矢理突っ込んで死んでいた。拳の先端はおそらく喉奥深くまで達している。最初見た時は、腕を飲み込んでいるように見えたくらいだ。嘔吐を促す為に指先を突っ込んだにしては極端すぎる。無意識に起こした拒絶反応の為か、腕を一周した歯形が深々と刻まれていた。今井の手に付着した血液は、その時に出血したものだと鑑識から報告を受けている。苦痛に歪んだ少女の表情は尋常なものではなかった。干からびた白い肌の表面に無数の赤黒い毛細血管が浮き出し、両目は僅かに突起して白目を向いていた。少女とは思えないほどの歪な皺が鼻を中心として放射状に広がり、苦痛を絵にしろと言われれば間違いなくこの顔を模写するだろうと清美は感じていたぐらいだ。異様な光景が問題にならなかったのは、自分と同時に駆け付けて来た救急隊員によって延命措置が行われたからで、目の当りにしていたのは清美と隊員の2人だけだった。最も事件性が無い場合、ほとんどの署員が次の日には忘れてしまう。

「せめて身元だけでも、早く分かればいいんですけどね」

谷茂の神妙な表情を初めて見た気がして、清美は一瞬戸惑った。

「僕の妹、年離れてて、あの子と同じぐらいなんですよ。中学ぐらいになると生意気になっちゃって、それはそれでけっこうむかつくんですけどね、時々、いい顔するんですよ。親は何やってるんですかね、あんな可愛い子が娘だったら、僕は必死に捜しますよ」

少女にこだわった理由がはっきりした。もし産まれていたら、ちょうどあのぐらいの年令になっていただろうし、顔つきがどことなく自分と似ている。清美に複雑な気持ちが交差した。
鑑識見通しが出たあと、初動捜査で交番巡査を交えて飲み屋街の店を一軒一軒しらみ潰しに聞き込み回ったが、少女を目撃した者は誰一人いなかった。今井を知る『ネコ』というバーのマスターもその日、今井は来ていないと証言している。では何故、人目につかない路地裏の袋小路に少女と今井は居たのか?今井の供述通り新宿で泥酔した後、馴染みの店に向かう途中で昏睡し、たまたま少女の遺体に遭遇していたとすると、少女は何の目的であそこまでいったのか?非行少女だったとしても、オヤジ達がふきだまるあんな場所に好き好んで行ったりはしない。趣味、嗜好を除けば別の目的が浮上してくるが、エンコウをやるタイプにはどうしても見えない。見た目だけで判断するのは危険だが、死にざまを考慮すると、もっと別の目的があったと考えるのが自然だ。あの界隈には少女達が好むオカルトチックな店や占い館もない。趣味でマスターが酔っ払い相手にタロットを披露していたとしても、わざわざ選んで少女は出入りしない。そうすると、遺体のあった場所に何か意味があるという結論が導き出されてくる。

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