福居ショウジンの秘蔵小説

二九一号室ノ住人

プロローグ

1 / 2

身元不明の少女 Ⅰ

1 / 2 / 3 / 4 / 5

身元不明の少女 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4

身元不明の少女 Ⅲ

1 / 2 / 3

弥生

1 / 2 / 3 / 4 / 5

291号室

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

第二の事件

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

リプレイ

1 / 2 / 3

見殺し

1 / 2 / 3 / 4 / 5

再捜査

1 / 2 / 3 / 4 / 5

生霊

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7

協力者

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15

潜伏

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

果て無き興亡

1 / 2 / 3w / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9

再捜査 Ⅱ

1 / 2 / 3 / 4 / 5
6 / 7 / 8 / 9 / 10

エピローグ

1

見殺し Vol.1

親族だけが集まって、福家法子の密葬が執り行なわれた。事故死といえども、奇妙な死を遂げた妻を人目にさらしたくなかったのか、それとも法子の仕事や交友関係者を快く思っていなかったのか、いずれにしても五年も別居して離婚まで考えていた夫婦なだけに、夫としては密かに葬儀を済ませて、一刻も早く次ぎなる人生を始めたいというのが本音だろう。

火葬場の煙突から黒い煙が上がった。清美は何度来ても火葬場が苦手だった。クッキ-を焼いたような甘い香りがどうしても人の死と直結出来ないのだ。生々しい臭いなら諦めも付くが、そうなると同行している谷茂にとってはとんでもないだろう。あれ以来、腐敗臭が鼻を突いて離れないらしく、嫌がるのを無理矢理引っ張って来ている。清美と谷茂は火葬場の中へは入らず、入り口で待った。結論は出ている。二見課長ですらいい顔は見せなかったが、どうしても確かめなければならない事があった。
焼き終えるのを待つ為、清を先頭に親族達が出てきた。清に近づくと、柑橘系の嫌な匂いが鼻を突いてくる。清は清美を確認すると露骨に嫌な顔を見せた。

「こういう場所まで押しかけて来るのか」

「仕事ですから」

清美は意味ありげに抑揚を押えた。同喝的だと対象が構えてしまう。

「事故死という事で解決したはずだろう」

「一つだけ確認しておきたいんです」

清の目許がひくついている。込み上げてくる怒りを押えているのが解かる。

「熊のぬいぐるみの件です」

「なんだ!それ」

清の態度が変わった。明らかに動揺している。

「家宅捜査の後、紛失しているんです」

「そんなの俺が知るわけないだろう!いい加減にしてくれ」

対象が怒った時こそチャンスだ。心の中が剥き出しになる。

「立ち入り禁止にしていた部屋を、無断で入ったのかと聞いているんです」

「無断だと?夫の俺が入って罪になるのか。遺品を取りに行っただけだ」

言い終わらぬうちに、清はウッと呻き声を漏らして押し黙った。

「やはり貴方でしたね。持ち出したのは熊のぬいぐるみだけなの」

「罪になるなら逮捕すればいいだろう」

「確認しているだけです」

「法子はテディベアを気に入っていた。だから持ち出した。別居していても妻は妻だ」

「見せて貰えますか」

「もう灰になっているよ。出棺の時、一緒に入れてやったんだ。それがそんなに悪いのか!」

激怒する清は客観的に見て、何かを隠そうとしている風にも見えるし、死者を弔う心を否定されて怒っているようにも見える。複雑で判断がつかない。清美の駆引きは狙い通りに行かなかった。清は完全に清美を拒絶している。焼き終わったらしく、係員が呼び戻しに来た為、清と親族達は再び中に入って行った。これ以上、ここに居ても進展は望めない。清美と谷茂は火葬場を後にした。

Vol.2へつづく

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